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Finale User's Bible 2011/2012/2014


 この3月22日、Finale version 26(以降 v26と表記)日本語版がリリースされた。今回先行リリースされたのはダウンロード版のみで、パッケージ版は4月上旬発売予定とのこと。
 じつは、英語版v26がリリースされる前後より、最新版に対応したFinale User's Bible(以下 FUB)は出版されるのかという声をいくつか頂戴した。もとより、最新バージョンの機能が大幅にリニューアルされ、現状にそぐわない内容が多岐に及んだ場合は改訂版の出版も視野に入れていたのだが、蓋を開けてみたら、そのような部分は数項目にとどまり、とりあえず今回のバージョンアップに対応した改訂版を出すまでもないという結論に至った。なお、これまでFUBは3バージョンごとに改訂版を出してきたという経緯もあり、次のバージョンであるv27の日本語版がリリースされた際(2021年か?)には、改訂部分の多寡にかかわらず改訂版は出版するつもりである。
 FUBの序章部分には、刊行以降にアップデートされた機能により内容に齟齬が発生した場合は、当ブログに最新情報を掲載する旨が記されている。そこで、日本語版v26がリリースされたこの機に、バージョンアップによる機能の変更により操作が変更された部分については、以下に補遺として挙げておくことにする。FUB 2011/2012/2014版ををお持ちの方は、必要に応じて参考にして頂きたい。


Chapter3:拍子・小節関係
Q. 拍子記号をスコアのグループごとの中央に大きくまとめて書く方法はありますか?
Q. 拍子記号をスコアのグループごとの上方にまとめて大きく書く方法はありますか?

 Finale 2014までは、スコア譜上で拍子記号を非表示にしたパートについては、パート譜では拍子記号を強制表示させる楽譜スタイルを作成して表示させるしかなかったが、v25からは、〔五線の属性〕にて五線単位でスコア譜とパート譜とで独立して拍子記号の表示/非表示を設定できるようになったので、スコア譜で拍子記号を非表示にしているパートでも、パート譜ではつねに表示できるようになっている。
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v25からは、拍子記号の表示をスコア譜とパート譜とで独立して設定できる


Chapter5:連桁関係
Q. 小節をまたいだ連桁はどうやって作るのでしょうか?
 v25より、〔パターソン・プラグイン>小節線をまたぐ連桁〕はやっとページをまたぐ連桁に対応した。したがって、Q.後半のページをまたぐ連桁を表記するノウハウについてはもはや不要になった。
 一方、このプログラムの改訂の際、小節を超した音符について〔スペーシング〕の属性をオフにすべきところを、誤って〔プレイバック〕の属性をオフにするというミスを犯しているため、このプラグインを適用した後にスペーシングを施すとレイアウトが乱れてしまい、かつ、小節を超した部分の音はプレイバックされない状況になっている。

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 この問題を回避するには、2つの方法がある。

・編集の最後に連桁をつなぐ
 要は、スペーシングを行わなければレイアウトの乱れは発生しないので、連桁をつなぐ作業は編集の最後に行う。
 とはいえ、自動スペーシングがオンになっていれば、この小節の他のパートでもひとたび編集を行えばたちまちレイアウトは崩れてしまう。このような不安定な状態は解消しておきたいという場合は、次の方法を推奨する。

・フレーム属性で属性を再設定する
 高速ステップ入力で連桁をつないだ最初の小節について〔フレーム属性〕ダイアログボックスを表示させる。
 〔エントリー番号:〕の〔次へ〕をクリックしていき、〔プレイバック〕のチェックが外れているエントリーを見つけたら、そのチェックをオンにすると同時に、〔スペーシング〕のチェックを外す。
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 小節線を越した音符が複数ある場合は、さらに〔次へ〕をクリックして音符の数だけ上記の作業を繰り返す。最後の音符まで修正したら、〔OK〕をクリックし、その小節に対してスペーシングをかけ直す。するとスペーシングは正しくなり、プレイバックも行われるようになるはずだ。この方法は少々手間がかかるが、これで2014以前のプラグインを適用した時と同じ状態になる。
 ところで、2014以前のプラグインを持っていれば、それをv25以降でも使えばいいじゃないかと思われるかもしれないが、v25以降のプラグインは64bit用に書き直されており、64bitに完全対応したv25以降のFinaleでは、残念ながら以前のプラグインは動作しない。


Chapter7:記号・文字関係
Q. スタッカートアクセントのスタッカートだけを五線の中に入れたいのですが?
Q. テヌートアクセントはどうやって付ければよいのでしょうか?

 v26よりアーティキュレーションが大幅に強化され、これらのアーティキュレーションはスタッカート、テヌート、アクセントをそれぞれ個別に付けることにより、自動積み重ね機能によって正しく配置されるようになった。
 ただし、従来のあらかじめ一つのアーティキュレーションとして合成されたスタッカートアクセントなどは依然用意されており、そちらを使う限りはこれまでどおり不適切な配置になってしまうことに注意が必要である。おそらく、この項目を読んでいる人はプロの浄書家か、記譜について高い意識を持っている人だろうから、このような注意を呼びかけること自体、杞憂に終わるだろうが。

 なお、旧バージョンのファイルをv26のアーティキュレーション仕様にアップデートした場合、FUBに書かれている方法で個別に付けたアーティキュレーションの並びが正しくならない問題がある。
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v25以前でテヌートとアクセントを独立して配置させたもの

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上記ファイルをv26で開きアーティキュレーションの配置をアップデートすると、
テヌートとアクセントの配置が逆転してしまう


 これは、アーティキュレーションをv26仕様にアップデートしても、その配置順位が従来のままであることに起因する。この場合、正しい配置にするには、〔アーティキュレーション選択〕画面で配置の優先順位を並び替える必要がある。
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v25以前のアーティキュレーションの並びは変わっていない


 あるいは、v26以降で閲覧するだけで編集する必要がない場合は、ファイルを開く際に表示されるアーティキュレーションに関するアラート表示で〔いいえ〕を選択しておけば、少なくとも以前の配置は保持される。

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Q. 64分音符のトレモロ記号はどうすれば出るのでしょうか?
 v26よりアーティキュレーションのトレモロの扱いが変更になり、従来〔符尾側〕に設定されていた位置情報が、〔符尾上〕に変更されている。操作としては、あらかじめ用意されている32分音符(3本線)のトレモロをコピーした上で、キャラクタを64分音符(4本線)のトレモロに変更するだけでよく、〔符尾上〕が選択されたときのみに現れる新設項目〔符頭からの距離:〕、〔符尾の端/旗/連桁からの距離:〕も特に変更する必要はない。
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v26のトレモロの設定


 なお、v26は旧バージョンで作られたファイルを読み込む際、8分〜32分音符のトレモロに関してはv26仕様にアップデートしてくれるが、64分音符のトレモロはトレモロ記号として認識してくれず、従来の配置設定が踏襲される。
 これは、もともとFinaleが64分音符のトレモロ記号をサポートしていないことに起因する。Maestroをはじめとする英語版付属の記譜用フォントには、64分音符のトレモロ記号が用意されていないことことがその証左である。
 この場合、64分音符のトレモロについては、手動で上記ダイアログの設定(〔ハンドル位置調整...〕については、全ての項目を「0」にする)に更新するすることでトレモロ記号として再定義するか、既存の32分音符のトレモロからコピーして64分音符のトレモロを新規作成し、元の64分音符のトレモロをそちらに一括置換する。


Chapter 11:プレイバック関係
Q. Garritan 音源使用時にミュートの種類をプレイバックに反映させることは可能ですか?

 Mac版Finale 2014で発生していたテキストによるミュートの切り替えができない問題は、v25以降では解消されている。


リンクしたパート譜でのプラグインの使用
 Finale 2014では、リンクしたパート譜の編集時にもすべてのプラグインが利用可能になったが、v25以降では、再び一部のプラグインを除いてほとんどのプラグインが利用できなくなっている。したがって、「Chapter 9:リピート関係」の「Q. コーダ部分の五線を分断したいのですが?」の要領でリンクしたパート譜上でコーダ切れを行いたい場合は、2011、2012の方法で手動でレイアウトを変更するか、2014を持っている場合は、リンクしたパート譜のコーダ切りの作業のみを2014上で行う方法もある。ただし、v25以降のFinaleデータは2014でそのまま開くことができるが、v25以降の新機能を利用した部分については表記が変わる可能性があることに留意されたい。


小節幅「0」に起因するバグ
 括弧付き終了反復記号がある小節の小節幅を「0」にすると、選択ツールでその小節の反復記号に触れるか、反復記号ツールを選択するとFinaleがクラッシュする。これは、プログラム処理中に0による除算が発生し、そのエラーリカバリーが行われていないものと考えられる(おそらく、開発者としては小節幅が0になるというシチュエーションを想定していなかったのだろう)。これを回避するには、小節幅を「1(EVPU)」にしておく。1EVPUは五線1間分の1/24の幅と誤差の範囲内であり、外観的に問題になることはないだろう。
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小節幅0がクラッシュを起こすシチュエーション
調号と終了反復記号の間にダミーの小節が挟み込まれている


 このバグが問題となるのは、「Chapter 6:リピート関係」の「Q. リピートの戻り先の調号や拍子記号の予告を表示する方法はありますか?」のみである。
 なお、クラッシュが発生するのは上記の条件のときだけだが、念のため、他の部分の小節幅を「0」にする際も1EVPUにしておくことを推奨する。


 今後、新たな問題が見つかった場合や、メンテナンスバージョンアップで仕様が変更されるなどでFUBとの内容に齟齬が発生した場合は、ここで報告を行う予定である。

 2018年10月10日、Finale version 26(以降v26と表記)がリリースされた。v25がリリースされたのが2016年の夏、途中いくつかの無償のメンテナンスバージョンがリリースされ、軽微な機能改善も行われたが、最近のFinaleでは、本格的なメジャーバージョンアップは2年おきのサイクルになっているようだ。なお、v26の日本語版がいつリリースされるのかについては、本稿執筆時点ではまだMI7からの公式発表はない。


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v26の起動画面


 v26の動作システム条件については、公式によればWindows版がWindows 7以上、Mac版ががmacOS Sierra(10.12)以上となっている。2009年に発表されたOS上で動くWindows版に比べ、Sierraは2年前に発表されたばかりのOSであり、1年毎にOSを更新するApple社の姿勢にも問題があるとはいえ、Mac版についてはあまりに条件が狭すぎると批判が出そうだ。ただ、我が家のEl Capitan(10.11)環境でも特にインストール時に跳ねられることはなく、今のところ特に問題なく動いている。Yosemite(10.10)環境ではどうかについてはまだ情報がなく分からない。仮にインストールできたとして、OS固有の不具合があっても、サポート外という扱いなのだろう。

 早速、v26の新機能についてレポートを行ってみよう。


機能強化されたアーティキュレーション
 今回の機能強化の目玉は何と言ってもアーティキュレーションである。Finaleはこれまでもバージョンアップの際に特定のツールに絞って大々的な機能強化を行ってきたが、今回はアーティキュレーションがその対象となった。

 これまでのFinaleでは、アーティキュレーションに配置の順位はなく、1つの音符に複数のアーティキュレーションを付けると、同じ位置に配置されてしまっていた(下図参照)。これを自動的に回避する方法はなく、衝突したアーティキュレーションはユーザーの責任において手動で修正するしかなかった。

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Finale v25以前のアーティキュレーション配置


 v26からは、アーティキュレーションの配置に順位が付き、同じ音符に複数のアーティキュレーションを付けると、自動的に並び替えてくれるようになった。

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 この順位は「アーティキュレーション選択」画面の並びで決定される。ダイアログ上部の注釈にもあるように、リスト中の「*」が付いたものが配置が考慮されるアーティキュレーションで、若い並びのものがより内側に配置されることになる。フェルマータは最も外側に配置されるものなので、従来より順位が繰り下がっていることが分かる。アーティキュレーションの配置の順番を変えたければ、このリスト上で項目を並び替えればよい。

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 また、スラーとのコンビネーションも強化されている。これまでは、スタッカートなどのスラーの内側に配置されるアーティキュレーションのみが接触回避対象だったが、v26からはスラーの外側に付くアーティキュレーションについても考慮されるようになった。

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 ただし、アーティキュレーション以外のエレメントとの衝突回避はスラーのみが対象で、同じ変形図形のトリルなどは自動回避の対象にならない。これは、発想記号などの他のツールで書かれたエレメントに対しても同様である。

 符頭側と符尾側でアーティキュレーションの配置を独立してコントロールできるようになった。これで、ヨーロッパの楽譜に多い、スタッカートを符尾側に付ける際は符尾に揃えて配置するという流儀にも対応できる(日本では符尾側でも符頭にセンタリングさせる流儀が一般的)。ただし、複合アーティキュレーション(後述)を別々に付けている場合、配置に矛盾が生じるケースがある。

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 これまでのFinaleでは、全音符にトレモロを付けると意図しない位置に付いていた。これは、符尾側に付くアーティキュレーションの配置については符尾の先端が基準になっていたため、先端より内側に配置されるトレモロの場合、符尾のない全音符では基準点を飛び越して反対側に配置されてしまうことが原因である。こうしたトレモロについては、手動で修正するか、もしくは全音符のためだけに独立した設定のトレモロを別途定義して適用するしかなかった。

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Finale v25以前のトレモロの配置。全音符のトレモロの位置が正しくない


 この問題はv26でやっと解決された。

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v26のトレモロ配置


 v26からは、このトレモロの配置のためだけに設けられたともいえる、"On Stem" という新たな配置設定が加わり、これを選択したときだけに現れるパラメータもある。この設定により、従来のトレモロに設定されていた "Always Stem Side(日本語版では「符尾側」)" が設定されているアーティキュレーションは皆無となり、もはやこのパラメータは過去のデータとの互換性のためだけに残されることとなった。

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 さらには、トレモロの数によって自動的にステムの長さが調節されるようになった。ステムの長さは、上記のパラメータの中の「符頭からの距離」と「符尾、旗、連桁の端からの距離」とトレモロの数によって決定される仕組みだ。

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 このように、今回のバージョンアップでは、アーティキュレーションの機能が格段に改善されたわけだが、残された問題点もある。
 アーティキュレーションにはメゾスタッカートやスタッカートアクセントなど、2つ以上の記号が組み合わされたものがある(ここでは便宜的に複合アーティキュレーションと呼ぶことにする)。これまでのFinaleでは、たとえばメゾスタッカートのスタッカートとテヌートを別々に付けると上記のような衝突が発生していた。それ以前に、スタッカートとテヌートなどを別々に付けるのは煩わしいことから、Finaleにはあらかじめ1つのキャラクタとしてまとまっている複合アーティキュレーションが用意されていた(下図のハイライトされたもの)。

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v25日本語版のアーティキュレーション選択画面


 浄書のルールでは、スタッカートやテヌートのような五線内に配置可能なアーティキュレーションは、符頭に一番近い線間に順番に配置されなければならないわけだが、上記のようにデザインが固定されたアーティキュレーションでは、それぞれの記号が分離できないため、浄書的には誤った配置になってしまう。

Articulation11.jpg

上:浄書的に正しい配置
下:Finaleに用意されている複合アーティキュレーションの配置。浄書的には誤り


 この問題は、v26からはそれぞれのアーティキュレーションを個別に付けることで完全に解決する。

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 さて、ここで疑問を持った方もいるだろう。そう、旧来の1つのキャラクターで表現されている複合アーティキュレーションの扱いだ。
 v26では、v25以前のファイルを読み込んだ際に、楽譜中のアーティキュレーションの配置を新仕様にアップデートするかどうかを尋ねてくる(環境設定にてこのダイアログをスキップさせることも可能)。

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旧ファイルを開いた際に表示される、アーティキュレーションをどう扱うかを問うダイアログ


 ここで、アーティキュレーションを新仕様に更新する選択をした場合、旧来の複合アーティキュレーションがどう扱われるのかという興味が涌く。個々のアーティキュレーションに分解されて正しく配置し直されることをかすかに期待したが、はたして複合アーティキュレーションの扱いには何の変化も起こらなかった。
 v26以降のアーティキュレーションにも、旧来の1つのキャラクタで表現する複合アーティキュレーションは依然用意されている(最初のほうのダイアログ参照)。旧ファイルとの互換性のために残したという大義名分もあるだろうが、この複合アーティキュレーションが用意されている限り、ユーザーは正しい配置のためにアーティキュレーションを別々に付けることよりも、一発で複合アーティキュレーションが付けられる簡便さを選ぶだろう。その結果、残念なことだが、今後もこうした誤った記譜の楽譜は世に出回り続けることになる。

 では、Finaleはどうすればよかったのだろうか。
 答えは簡単だ。2つ以上のアーティキュレーションを同時に付けられるようにすればよいのである。たとえば、アーティキュレーション選択画面で、複数のアーティキュレーションを選択可能にするのでもよいし、マクロが定義されていれば、複数のマクロキーを押したまま付けられるというのでもよいだろう。技術的にもそんなに難しいことではないはずだ。
 さらに願わくば、旧来の複合アーティキュレーションを個別のアーティキュレーションに分解して正しい配置にしてくれるユーティリティ、ないしはプラグインを用意して欲しい。このままでは、Finaleはせっかく複合アーティキュレーションを正しい配置にできる手段を設けたのに、それを有効利用できないでいることになる。

 ちなみに、今回のアーティキュレーションの強化は垂直方向の配置のみに限定されているので、アルペジオ記号の臨時記号を避けてくれない等の、水平方向の配置に関する従来からの問題点は何ら改善されていない。アルペジオ記号の配置はアーティキュレーションの中でも特殊であり、本来なら一般的なアーティキュレーションとは独立した制御が必要なエレメントと言え、今回強化が見送られたことは理解できなくもない。v26のアーティキュレーション設定のパラメータ名のうち、これまで単に "Positioning:" だったものをわざわざ "Vertical positioning:" と断っているのは、今回の強化が垂直位置に限定したものだったということもあるだろうが、将来 "Horizontal positioning:" も加えるという布石にも取れる。新興ソフトDoricoの完璧と言えるほどのアルペジオ記号の制御を見てしまうと、Finaleにも奮起を促したくなるが、v26.5あたりで実現されることを期待する。

 今回のアーティキュレーションの改善点は、後発ソフトのSibeliusやDoricoでは初期バージョンから解決されている部分であり、Finaleがこれらのソフトの後塵を拝している数ある弱点の1つとなっていた。したがって、昨今の楽譜作成ソフトの能力を知るものにとっては、今回のアーティキュレーションの機能強化は決して目新しいものではなく、これでやっと競合ソフトとスタートラインに並んだに過ぎない。


その他の改善
・小節の直接指定
 従来のFinaleでは、スクロール表示やスタジオ表示においてはドキュメントウィンドウ左下のボックスにて小節数を指定できるが、ページ表示ではそこはページ指定になり、小節を指定することはできなかった。v26からは、いずれの表示モードにおいても、Windowsではctrl+shift+G、Macではcommand+shift+Gにてダイアログが現れ、そこで指定できるようになった。

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・デフォルトファイルやテンプレートファイルの発想記号、コードサフィックス、変形線形が大幅に追加されている。
 選択肢が増えた分、目的の記号を探すのが大変になってしまうが、よく使うものにはショートカットであるマクロを設定しておくとよいだろう。

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・インストール時に、v25のアンインストールを選択できる。もちろん、残しておくことも可能。

・Mac版の高解像度ディスプレイでのパフォーマンスを改善。
 これまでも高解像度ディスプレイを使うと特定の動作が遅くなるという指摘が多く寄せられていた。私は依然古いモニタを使用しているので、高解像度ディスプレイでのパフォーマンスは体験できないのだが、このあたりの問題点についてはかなりの改善が行われたようだ。
 ただ、以前も指摘したことがあるが、高解像度ディスプレイが一般的になってきている今日日、操作に直接かかわる部分ではないとはいえ、インターフェイスの所々に未だに白黒2値のビットマップ画像が使われ続けているのはいかがなものか。

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・MusicXMLが強化された。
 MusicXMLについては、メンテナンスバージョンのアップデートの際にも、その都度多岐にわたって改善がなされている。多分に技術的なことなので、具体的な改善点について知りたい方はオンラインマニュアル(英語版)の該当項目を参照されたい。現在、楽譜記述の共通言語であるMusicXMLの開発はFinaleの開発元のMakeMusicが行っているわけだが、こうしてMusicXMLの精度の向上に心血を注ぐ背景には、新興の競合ソフトの台頭を踏まえ、それらのデータをFinaleに高精度で取り込めるようにすることでユーザーを囲い込みたいという思惑も感じられる。


 上述のとおり、今回のバージョンアップでは、アーティキュレーションの機能強化以外に特筆すべき改良点は見られず、改訂は限定的なものにとどまっている。前回のバージョンアップでは、記譜部分に革新的な改善はなく、少々肩すかしを食らった気分だった。その後まもなく、先進的な操作性を備えた楽譜作成ソフトDoricoがリリースされたことは記憶に新しい。
 現在のFinaleの最大のウィークポイントは、楽譜のエレメントの衝突に対して多くの部分で対応できていないことだ。しかし、他の競合メジャーソフトは現在そのあたりを確実にクリアしている。商用版下制作業者ならともかく、一般的なユーザーは、そんな衝突回避の調整ために時間を費やしたくはないだろう。そこを自動的に調整してくれるソフトがあれば、みんなそちらに流れてしまうのではないだろうか。
 Finaleの次のメジャーバージョンアップは2年後だろうか。少なくとも、エレメントの衝突については、ツール単位での対応などという悠長なことをやっていてはダメで、次回までにほぼ解決されていなければ、新規ユーザーの獲得はおろか、古参ユーザーからも見切りを付けられるだろう。MakeMusicにはそのくらいの危機意識を持って開発に当たっていただきたいものである。

最新のFinaleの名称はただの"Finale"
 2016年8月16日、MakeMusicはFinaleの新バージョンをリリースした。FinaleはFinale 97から毎年リリース年(実際はその翌年)の年号が付くバージョンがリリースされ続けてきたが、2012を最後にこれが途絶えた。この結果、2013というバージョンは欠番となり、2012の次は2014になった。今年リリースするとなれば2017ということになるのだろうが,MakeMusicはバージョン名に年号を付けるというこれまでの慣例も切り捨てた。最新版の名称はズバリ"Finale"。それ以上でもそれ以下でもない。アプリケーション名も"Finale"としか書かれていない。これまでは各バージョンを並行して使い分けることができたが、今後はバージョンの区別のない"Finale"という唯一のアプリケーションとしてアップデートして行く方針なのだろう。
 ただ、それだと他のバージョンとの区別が付かないので、本家でも便宜上Version 25と呼んで区別している。本記事では新バージョンについてはv25と記すことにする。

FinaleApp.jpg

Finaleのアイコンとアプリ名。バージョンの記述はない。


 今回のバージョンアップで特筆すべきはファイルの互換性である。Finaleは2012までは、新しいバージョンで保存したファイルは古いバージョンで開くことができない完全な前方互換だった。2014からは、従来の"mus"ファイルに代わって新しいファイル形式"musx"が採用され、今後はこのフォーマットが標準となるとアナウンスされたが、実際に新バージョンが出た際の、古いバージョンの"musx"ファイルとの互換性が気になるところだった。早速確認してみたところ、v25で保存したファイルは、コンバートが行われることなくそのまま2014でも開くことができる。また、2014と同様、2012フォーマットへ保存する機能も残されている。つまり、今回から後方互換が完全に保証されたことになる。こうなると、新機能で表現された部分は古いバージョンでどう扱われるのかという点が気になるところだが、これについては後述する。
 今回のバージョンでは、プログラムを64ビット用に全面的に書き直したようで、起動やプレイバックに関するパフォーマンスがかなり改善されている。


切り捨てられた古いMac OS
 v25へのバージョンアップを検討しているMacユーザーはまず注意しなければならない点がある。 v25はOS X Yosemite(10.10)以上でなければ動作せず、Mavericks(10.9)以前のOSにはインストールすることはできない。この切り捨てについてMakeMusicは「この秋にリリースされるSierra以降のOSに安定的に対応させるため」と説明しているが、Yosemiteはたった2年前にリリースされたばかりのOSである。1年毎という頻度でOSを更新し続けるAppleの姿勢にも大いに問題があるとはいえ、この切り捨てはあまりにユーザー軽視ではないだろうか。これで、v25へのバージョンアップを逡巡するMacユーザーも出てくるかもしれない。
 一方、Windows版は、Windows 7以上での動作が保証されている。この処遇の差も、Macユーザーがマイノリティーである所以だろうか。

 ......とまあ泣き言を言っても始まらないので、以下に新機能についてレビューしてみることにする。


点線スラー
 これまでのFinaleでの点線スラーは、太さが均一の針金状のスラーだった。もっとも、ツール名はあくまで「点線カーブツール」であって、あれはもとより点線スラーではなかったという弁明も成り立つわけだが、何はともあれ、v25ではスラーの厚みの変化を持った、真の意味での点線スラーが実現された。

SmartShapePalette.jpg

点線スラー(青色部分)が追加された変形図形ツールパレット
旧来の「点線カーブツール」は一番下に追いやられている


 なお、新方式の点線スラーを2012フォーマットに保存して2012で開くと、従来の点線カーブで表現される。これはある程度予想が付くし、納得もいくわけだが、興味深いのは、2014で開くと、向きが反転した通常のスラーになっていることだ。一瞬バグかと思ったが、今後"musx"ファイルはどのバージョンでも開くことができるという設計方針から、点線スラーに対応していない下位バージョンでは、本来の状態ではないことをあえて明示しているものと考えられる。

DashedSlur25.jpg

v25のスラー。左から通常のスラー。点線スラー、点線カーブ


DashedSlur2014.jpg上記のファイルをFinale 2014で開いたもの。点線スラーだったものが反転している。


DashedSlur2012.jpgFinale 2012フォーマットで保存し、Finale 2012で開いたもの


 ところで、せっかく点線スラーが実現したのだから、旧来の点線カーブを自動的に点線スラーにコンバートしてくれる機能があってもよさそうだが、残念ながらそのようなものは見当たらなかった。旧ファイルの点線カーブを点線スラーに置き換えたければ、現状では一旦点線カーブを削除して、改めて点線スラーを描くしかなさそうだ。せめて、発想記号やアーティキュレーションのように、項目のハンドルをマクロキーでダブルクリックすれば変更できるようにならないだろうか......。
 さらには、点線スラーが表現できるのなら点線タイも技術的には可能なはずだが、今のところ実現できていない。まあ、見た目的には点線スラーで代用しておけということなのだろう。


移調楽器の入力時のモニター音に移調設定が反映
 これまでのFinaleでは、移調設定が行われているパートに入力する際、移調された音ではなく、記譜音がモニターされていた。例えば、記譜音と実音の音程がかなり隔たっているバリトンサックスやグロッケンを移調譜で入力していると、音源が割り当てられていない音域外では発音しないというケースもあった。これについては、かなり以前から改善の要望が幾度となく出ていたのだが、今回やっと実現した形になった。


スコア用の大きな拍子記号の運用の改善
 拍子が頻繁に変わる曲のスコアなどでは、複数の五線をまとめる大きな拍子記号が用いられることがある(下記の譜例参照)。これまでのFinaleでも、スコア譜用とパート譜用に異なるフォーマットの拍子記号を使い分けることはできたが、表示についてはスコア譜とパート譜とで個別に設定できなかったため、スコア上で拍子記号を非表示にしたパートでは、そのパート譜は拍子記号を強制的に表示させる楽譜スタイルを作成して適用させるという面倒な作業が必要だった。v25では、「五線の属性」にてスコア譜とパート譜の拍子記号の表示を独立して設定できるようになったので、この面倒な作業が不要になった。

StaffAttributes.jpg


 ところで、この特定のパートのみに拍子記号を表示させる方法では、そのパートが「空の五線を隠す」の対象になった場合、拍子記号が忽然と消えてしまうという問題が発生する。

LostTimeSignature.jpg

拍子記号はFl.2パートにのみ表示させているので、
Fl.2パートを非表示にすると、当然のことながら拍子記号も消えてしまう。


 じつは、本家のブログのこの機能のティーザー記事を読んだとき、ここまで派手に新機能と銘打っているからには、私はもっと画期的な機能、例えば、組段のグループ名がそのグループの五線の数がどう変わろうとつねにグループの中心に表示されるように、拍子記号も同様の運用ができるようになるのかなどと勝手に期待を膨らませていたのだが、ちょっと肩すかしを食らった感じである。


ほとんど待たされなくなったプレイバック
 これまでは、Human Playbackを使って再生する場合、どんなに短い曲であっても必ず最初にプログレスバーが現れていたが、v25からはこれが現れなくなり、曲の規模にもよるが、再生ボタンをクリックすると、ほとんど待たされることなくプレイバックが開始されるようになっている。
 なお、プレイバックコントローラーを非表示の状態でプレイバックさせた場合は、従来通り、Human Playbackを使用しないプレイバックになる。


ReWireのサポート
 ReWireはDAWソフト同士を連携させる規格だが、シーケンサーソフトからFinaleをスレーブとして同期させることができるようになった(Finale側からコントロールすることはできない)。シーケンサーソフトからオーディオソースとしてFinaleを選択した状態でFinaleを起動すると、Finaleのプレイバックコントローラーからは再生ボタンなどが消え、待機状態となる。シーケンサーソフトをスタートさせると、Finaleも自動的にスタートする。この機能によって、Finaleのプレイバックを直接シーケンサーソフトにレコーディングすることが可能になる。

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スレーブとして待機中のFinaleのプレイバックコントローラー


その他の追加機能
 Garritan楽器に新たにいくつかの音色が加えられた。詳細はこちらを参照されたい(太字が新たに加えられた音色)。

 最近のFinaleでは、たとえソロピアノの楽譜を作成したとしても、スコアとパート譜が自動的に作成される。そして印刷時には「印刷する楽譜の選択」というダイアログが必ず表れ、煩わしいことこの上ない。私などは、パート譜不要の楽譜を作っている際は、このダイアログが出ないように、まずすべてのパート譜を削除する作業から始めていたくらいだ。

Print.jpg

Mac版の印刷ダイアログ画面
以前の独立していた「印刷する楽譜の選択」が組み込まれている


 じつは、Windows版では従来よりこの楽譜の選択画面は印刷ダイアログそのものに組み込まれていて、選択が希望通りになっていれば特に何もする必要はない。私と同様の不満を抱えていたMacユーザーからの苦情が殺到したのだろう、さすがにMac版もWindows版と同様のインターフェイスに改善され、あの煩わしいダイアログから解放された。ただ、これまでMac版だけがなぜあのような不便な仕様になっていたのかは不明である。


 ところで、今回のv25とFinale 2014の間には、2014.5というメンテナンスバージョンが存在するのだが、諸般の事情から日本語版のリリースは見送られている。というわけで、2014.5で追加された新機能も紹介しておこう。

 転調時に自動的に複縦線になるようになった。もちろん、ファイル別オプションにてこの機能をオフにすることもできる。

 Finale 2012のスコア・マネージャーの登場で一旦廃止された五線メニューの「五線の並べ替え」機能が復活している。五線の並べ替えそのものはスコア・マネージャーでも可能だが、五線メニューの「五線の並べ替え」では、グループ単位での並び替えが可能であるのが最大の特長だ。ただし、従来通り、グループをまたいでの並び替えはできない(スコア・マネージャーでは可能)。


廃止された機能
・ライブコピーツール(英語版ではMirror Tool)
 ライブコピー(参照元を反映させて表示するコピー機能。参照元を編集すると自動的にコピー先も更新される)が使われている旧ファイルを開く際には、通常の小節にコンバートするかどうかを問うアラートが表示される。ここで「コンバートしない」を選択すると、ライブコピーはもはや編集不可能なアイテムとして残り続ける。なお、従来よりユーティリティメニューにあった「ライブコピーを通常の小節に戻す」機能もその救済策としてまだ残されている。ある機能を廃止しておきながら、その機能に基づくデータ構造そのものは残しておくという方針は、旧バージョンに立ち戻って編集するシチュエーションを考慮したものだと考えられるが、こうしてレガシーなものをいつまでも残していくと、プログラムは一層複雑怪奇なものなり、バグの誘発につながりはしないかと老婆心ながら危惧してしまう。

・テンポツール 
 「テンポツール」で作成された旧ファイルのテンポ情報は、そのままMIDI情報にコンバートされて保持される。

・スキャン入力
 この機能が廃止された理由については本家のブログに詳しく書かれているが、要は楽譜をスキャンする行為はすなわち楽譜をコピーすることに他ならず、著作権法に抵触するのではないかという議論があった上での判断らしい。今後もスキャン機能が必要というユーザーは、最後の搭載となったFinale 2014を捨てずにおこう。

・Band-in-a-Box 自動ハーモニー(プラグイン)
 64ビット仕様に対応できなかったことが理由とされているが、これは将来の復活に含みを持たせている。

・アイテム統計(プラグイン)

・8分音符の自動連結(プラグイン)
 ユーティリティメニューの「連桁の再連結」機能でほぼ同等の処理ができるため。

 ところで、2014までは、バンドルされなくなったプラグインであっても、旧バージョンのプラグインをプラグインフォルダにコピーすれば問題なく使えていたが、今回はプラグインも64ビット仕様に作り直されたため、旧バージョンのプラグインは使えなくなっている。

 日本語版としてリリースされなかった2014.5で廃止された機能も紹介しておこう。もはや誰も使わないだろうということで切り捨てられたと思われるものばかりである。
・コマンド入力(プラグイン)
・並進行の検索(プラグイン)
・第3線の符尾の向き(プラグイン)
・小節番号配置情報の消去(プラグイン)
・譜めくりアシスタント(プラグイン)

・マイク採譜(MicNotator)
 マイクによる入力が廃止されたのにもかかわらず、リアルタイム入力ツールのアイコンにマイクの絵がまだ残っているのはご愛敬か。


既に問題点も?
 Windows版がどうかは不明だが、少なくともMac版では2014で作成されたものも含む旧ファイルを読み込んだ際、一部のフォントが文字化けして表示される問題がある。どうやら文字化けするのは欧文、日本語フォントにかかわらず、古いType1フォントのケースが多いようだが、これについてはもう少し精査してみたい。じつは、この問題は日本語版がスキップされた2014.5から発生しだしたのだが、2014.5からはフォントの扱いが変わったらしく、その影響が出ている可能性が高い。

Text2014.jpg

Finale 2014で開いた状態


Textv25.jpg上のファイルをv25で開いた状態


 また、Finale 2014からは、パート譜表示でもプラグインが使えるようになったのだが、v25では再びほとんどのプラグインがグレーアウトして利用できなくなっている。おそらく、パート譜独自にプラグインを使用することによって、スコア表示と矛盾が生じてしまう状況が発生したため、再び封印したのではないだろうか。


まとめ
 今回のバージョンアップについて、パフォーマンスの改善という部分は評価できるものの、新機能については「この機能でどれだけの人が恩恵を受けるの?」といった感じの些末な改変にとどまった印象だ。ライバルソフトに大幅に後れを取っているとされるレイアウト機能については、今回も何の改善も見られなかった。とりわけOSのバージョンによって不具合なく使用できるバージョンが限られているMacユーザーにとっては、ますます使用条件が狭められる事態になっている。

 現在、この冬にリリース予定の全く新しい楽譜作成ソフトが注目を浴びている。そんな状況の中で、Finaleが今後どうユーザーを引き留めていくだけの魅力を持ち続けられるのか、正念場を迎えていると言ってもいいだろう。

 楽典上は不要なのだが、ヒューマンエラーによる演奏ミスを防ぐためにあえて記す、俗に「親切ナチュラル」、「親切臨時記号」などと呼ばれる臨時記号がある。Finaleでは、このような臨時記号は音符の入力中に付けることももちろん可能だが、「警告の臨時記号」というプラグインを使えば、まとまった範囲に一気に親切臨時記号を付けることが可能だ。曲の音符をすべて入力し終わった時点で、曲全体に対してこのプラグインを適用させるというのが最も一般的な使われ方だろう。
 かように便利な「警告の臨時記号」プラグインだが、あくまで機械的な判断しか行わないので、ケースによっては付けて欲しくない音や、付ける必要の無い音までにも「お節介臨時記号」として付いてしまうことがある。
 次の譜例では、楽典的には矢印の音に打ち消しのナチュラルは不要だが、念のためナチュラルを付けるのが一般的だ。「警告の臨時記号」プラグインは、このようなケースでも自動的に親切臨時記号を付加してくれる。

CautionaryAccidental1.jpg

 しかし、同様のケースでありながら、次のような場合までも打ち消しナチュラルを付けると、楽譜は臨時記号だらけになって、かえって読みにくくなってしまう。なお、どういった場合に親切臨時記号を付けるかは作編曲家や編集者の判断によるところが大きく、絶対的な基準というものは無い。

CautionaryAccidental2.jpg

 また、次の左の譜例にこのプラグインを適用すると、右のようにオクターブ違いのすべての音符に余計な臨時記号が付いてしまう。

CautionaryAccidental3.jpg

 このような意図に反して付いてしまった臨時記号は、高速ステップツールで符頭にカーソルを合わせ、「*」キーをタイプすれば消すことができる。しかし、これを多くの臨時記号に対してひとつひとつ行うのは骨の折れる作業だ。これをまとめて消す方法はないのだろうか。
 「警告の臨時記号」プラグインで、「臨時記号の表記:」の項目のチェックをすべて外した状態(下記)で、再度適用すれば元に戻るのではないかという淡い期待を抱いた方もいらっしゃるかもしれないが、残念ながらこの方法では臨時記号は消えてはくれない。そもそも、これまで例示したような小節内のオクターブ違いのケースでは、ここのチェックをすべて外した状態でプラグインを適用しても、親切臨時記号は付いていまう。

CautionaryAccidentals.jpg

 これは、こうして付けられた臨時記号にはロックがかかってしまい、一旦ロックのかかった臨時記号は、手動でロックを外さない限り解除できないためである(※注)。では、ロックのかかった臨時記号とはどういう状態なのか、かかっていない臨時記号とは何が違うのか。まずはこのあたりをおさらいしておこう。
 「おさらいなんかどうでもいいから、早く消す方法を教えろ」という方は、ここを読み飛ばしていただいても結構である。


※注 「警告の臨時記号」には「臨時記号のロック」というオプション項目があるが、Finale 2014以降は、臨時記号の表示方法を変更した場合は自動的にロックがかかるように変更されており、「臨時記号のロック」のチェックを外した状態でプラグインを適用した場合は何の変化も起こらない。2014以降ではこのオプションに意味は無くなっているのである。ちなみに、2014版の「警告の臨時記号」のマニュアルの「臨時記号のロック」の説明には、「このオプションは、〔高速ステップ〕メニューの〔臨時記号の自動ロック〕と同じです」という旧来からの一文があるが、そもそも2014からは、高速ステップメニューの「臨時記号の自動ロック」という項目自体が削除されている。


 F−F♯と入力する。この状態ではF♯のシャープにはロックはかかっていない。

LockedAccidental1.jpg

 この状態で1拍目のFにシャープを付けると、楽典通り2拍目のシャープは自動的に消える。

LockedAccidental2.jpg

 元に戻した状態で、今度は2拍目のF♯の符頭にカーソルを置き、「*」キーをタイプしてロックをかける。高速ステップ編集枠の右下に「*」マークが表示され、ロックされた状態であることが分かる。

LockedAccidental3.jpg

 この状態で1拍目のFにシャープを付けても、2拍目のシャープは表示されたままだ。これは2拍目のシャープがロックされているためである。

LockedAccidental4.jpg

 じつは、臨時記号のロックとは臨時記号の非表示状態をロックすることでもある。次の操作で検証してみよう。

 F♯−F♯と入力する。楽典通り2拍目にはシャープは付かない。

LockedAccidental5.jpg

 この状態で1拍目を休符にすると、当然のことながら2拍目には自動的にシャープが付く。

LockedAccidental6.jpg

 元に戻した状態で、今度は2拍目について「*」キーをタイプすると、強制的に臨時記号が表示され、ロックされた状態になる。さらにもう一度「*」キーをタイプすると臨時記号は消えるが。編集枠の右下に「*」マークは表示されたままだ(これは2014以降の操作で、2012以前ではoption(Mac)/ctrl(Win)を押しながら「*」をタイプする必要がある)

LockedAccidental7.jpg

 この状態で1拍目を休符にしても、2拍目にシャープは付かない。しかし、プレイバックすればF♯で演奏される。これは臨時記号の非表示状態がロックされているためである。このようなロックされた音符を切り貼りする際、意図しない臨時記号表記になる可能性が高いので、編集の際には注意が必要だ。とはいえ、それに気付かずに作業を続けてしまった場合、楽譜全体からこのような意図せずロックされてしまった音符を見つけることは容易ではない。

LockedAccidental8.jpg

 「警告の臨時記号」で付けた臨時記号も含め、このような臨時記号のロックを一気に解除する方法は本当にないのだろうか。じつは、それは意外なところにあった。

 プラグインメニューの「作曲・編曲関連」の中に「カノン技法」というプラグインがある。これは、選択部分のフレーズをいろいろな条件を付けて反転や逆行させたりするもので、古典的なカノンの他、セリエル音楽の創作にも利用できそうだが、実際に活用したという話はついぞ聞いたことがない。Finale 2012までバンドルされていた、IRCAMが提供していた「作曲支援ツール」群に似た、どちらかといえば実験的なプラグインと言える。
 さて、その存在すらほとんどの人に知られていないと思われる「カノン技法」プラグインだが、その設定項目をつぶさに調べてみると、臨時記号に関係するオプションのポップアップメニューに、「臨時記号のロックを解除」というそのものズバリの項目を見いだすことができる。選択範囲を指定した後このプラグインを呼び出し、「臨時記号のロックを解除」を選択し、他の設定には何も手を加えず「適用」ボタンをクリックすれば、すべての臨時記号のロックが解除できるのである。

CanonicUtilities.jpg

 ところで、臨時記号のロックは、ユーティリティメニューの「異名同音の再表記」を行うことでも解除することができる、ただし、この方法を使った場合、手動で異名同音変換を行った音については、Finale 20xxメニュー(Mac)/編集メニュー (Win)にある「異名同音の表記」に従った表記にリセットされてしまうので注意が必要である。

CautionaryAccidental4.jpg

 ロックを解除する方法としては、「カノン技法」を用いるより「異名同音の再表記」を用いるほうが操作が簡単なので、後者を用いた場合のリスクを勘案した上で適切に使い分けるのが賢明だろう。

 しばらく多忙で更新ができなかったのだが、その間にもネタは着実に集めていたので、そんな中からちょっとした小ネタを紹介しようと思う。

 今回はどちらかというと楽譜出版業者に読んでいただきたい、DTP寄りの話である。
 Finaleは欧米のソフトなので、当然のことながら日本語固有の組版処理には対応していない。タイトルなどで仮名が続く場合や約物が含まれる場合、Finaleでは文字詰め処理が全く行われないため、文字間が無駄に空いてしまうことがある。「ちゃんと読めるし別に問題ないじゃないか」という人もいるだろうが、それはあえて例えるなら、テキストエディタで作成した文章をそのまま版下として出版しているようなものであり、商用印刷に携わっている者から見れば看過できない部分である。


TextKerning1.jpg

Finale上でタイトルを付けた場合


 もっとも、Windowsに付属のMS P明朝などのプロポーショナルフォントを使えば、もとよりフォント自体が文字幅情報を持っているので、普通にタイプするだけで適切な文字詰めが行われる。しかし、Mac OSに付属のヒラギノをはじめ、一般的な日本語フォントはモノスペース(等幅)になっているので、このような文字詰めは行われない。


TextKerning2.jpg

MS P明朝でタイトルを表示したもの


 本格的なDTP環境を備えていれば、専用のページレイアウトソフトに楽譜部分のみを貼り付けた上で、曲のタイトルなどは、そのページレイアウトソフトの文字組み処理を施して記入するのが一般的だろう。しかし、そのような環境を持ち合わせていない場合や、そこまで時間をかけたくない場合、Finale上で何とかならないものだろうか。

 Finaleには文字メニューに「文字間調整」という機能がある。ただし、この機能を使って文字の一部分の間隔を調整しようと思っても、連続してひとつのフォントで書かれている文字列全体の間隔が変わってしまう。これは、もとより欧米のアルファベットはフォント自体がプロポーショナルに設計されているので、少なくとも楽譜制作ソフトレベルで文字単位での間隔調整を行う必要性はないと判断されたものと考えられる。


TextKerning3.jpg

一部分の文字間隔を縮めようと選択した状態から......

TextKerning4.jpg

文字間隔に負数を設定してみたところ......


TextKerning5.jpg

タイトル全体の文字間隔が一律に縮んでしまい、一部の文字は重なってしまっている


 それならば発想を逆転してみよう。一番詰めたい部分の文字間隔をあらかじめ全体に設定しておき、文字が詰まりすぎた部分に任意の半角スペースを挿入することで調整してしまえばよいのだ。


TextKerning6.jpg

"「"と「ル」の間にスペースをタイプして広げているところ


 なお、ここで注意すべきポイントがある。
 文字間隔に負数を指定すると、その値の分だけ文字は重なることになる。ここでスペースをタイプして広がる間隔は、半角スペースの文字幅から重複部分を引いた値となる。

TextKerning7.jpg

 例えば、Mac OSに付属のヒラギノ明朝の場合、半角スペースの幅は333(/1000em)なので、文字間隔に「-333」を指定すると、差し引き「0」となり、いくらスペースをタイプしても文字間は変わらなくなる。さらに、文字間隔に「-333」より小さな数値を指定すると、半角スペースの幅より重複部分のほうが上回るので、スペースをタイプすればするほど文字間が縮まってしまうという逆転現象が発生する。したがって、この重複部分の幅としては、そのフォントの半角スペースの文字幅より小さな値を設定する必要がある(実際はその値の反数)。
 半角スペースの文字幅はフォントによって異なるので、もし、スペースをタイプしたとき、逆に文字間が縮むようなことがあれば、それは文字間隔の値が大きすぎたということになる。

 以上のことを踏まえて、適切な文字間隔の値を設定し、それぞれの文字間を手動でスペースを挿入することで調整すれば完成である。この処理をするだけでも、タイトルの見栄えはずいぶんよくなるはずである。


TextKerning8.jpg


 ところで、日本語歌詞を入力しているときにもシラブル中の文字間を詰めたいときがある。しかし、Finaleの歌詞機能では、この文字間調整機能が使えないようになっている。


LyricKerning1.jpg


 これも、基本的に歌詞のシラブル中の文字間を調節する必要性がない文化圏で設計されたソフトの仕様なので、ある意味仕方のないことである。このケースでは、歌詞機能で書くことをキッパリあきらめ、文字間隔調整の行える文字発想記号で代替するしかない。


LyricKerning2.jpg

発想記号で歌詞を部分的に差し替えたもの

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