2008年6月アーカイブ

 Finaleが高度な楽譜編集機能を備えているソフトであることは論を待たないが、そのFinaleにも、こんな基本的な楽譜表記のルールも反映していなのか、というような仕様が結構見受けられる。このあたりの話題は「Finaleのここがダメ!」のカテゴリでまとめていくつもりだが、おそらく、このカテゴリが一番充実してしまうのでは、と今から苦笑している。それはまるで「Finale叩き」の様相を呈してくるかもしれないが、それもFinaleに対する愛情の裏返し、Finaleに対するエールだと受け止めていただきたい。

 さて、その第1弾は休符の垂直位置である。
 複声部の場合や、単声部でも連桁グループの内側に置かれる休符は本来の定位置(ホームポジション)から上下にずらして置かれる。このずらし方にはルールがある。
 例えば8分休符の場合、ケルン(黒玉の部分)の位置は五線内においてはつねに線間になければならない。ところがFinaleでは、休符も音符と同様に2度ずつ上下に移動させることができるので、結果的にそのルールに反した誤った位置にも配置できてしまう。


restpos1.jpg

×印が誤った位置。▼印はホームポジション。
△印は微妙な位置だが、可能なら避けたいところ。

 なぜこれが誤った位置なのか理由がよく分からないという人は、休符に付点を付けてみれば一目瞭然だろう。


restpos2.jpg

 すなわち、休符は、五線内においてはホームポジションから3度ずつ1間単位で上下しなければならない。一方、五線の外ではこの制約はない。


 なお、ケルンの数は8分休符以下ではひとつずつ増えていくから、当然のことながら制限される配置(×印)もひとつずつ増えていくことになる。


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16分休符の配置

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32分休符の配置

 ところで、楽譜はいつも五線とは限らない。打楽器のように1〜数本線で表記されるものもあれば、ギターのタブ譜のように6線以上で表記されるものもある。それぞれの本数によって、制限される範囲も異なってくる。

 休符に限ったことではないが、このような配置ルールを言葉で表すのはじつにたやすい。「見にくくならないように」......それだけのことなのだ。しかし、そういったかつての浄書職人が長年かけて築き上げてきた感覚的なロジックをコンピュータで制御するのは意外と面倒なことなのかもしれない。とはいえ、スペーシングや、Human Playbackといったもっと複雑な制御を実現している現在、この程度の制御がなおざりにされているのはやはり片手落ちと言わざるを得ない。

 私たちは、Finaleの休符が誤った位置に置かれる可能性があることを承知した上で、誤った配置にならないような設定を行う等、つねに細心の注意を払っているわけだが、このことを知らずに無造作に使っていると、Finaleはいとも簡単にぞんざいな楽譜を作り上げてしまうソフトだということを知っておいて欲しい。

※ 09/7/14に記事追加

 Finale 2007までは、コピーには小節単位モードと音符単位モードの2つのモードがあったのだが、2008からはこの垣根が撤廃された。これは歓迎すべきことなのだが、しかしまた、これも仕様の変更後にはしばし起こることだが、新たな困ったバグも生み出してしまったようだ。
 装飾音符のうち、小節線の直前に置かれる後打音を含む小節をコピーすると、その後打音は、次の小節の1拍目の前打音に勝手に置き換わってしまうのだ。これは、垂直方向へのコピーでも水平方向へのコピーでも同様である。


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後打音のある小節をコピーすると......

afternote2.jpg

勝手に次の小節の前打音に置き換わってしまう。

afternote3.jpg

既に入力済みの小節の直前にコピーすると......

afternote4.jpg

勝手に1小節が挿入されてしまう。

 不思議なことに、この現象は1本線のみの楽譜では生じない。しかし、五線を複数設けている楽譜では必ず発生してしまう。もちろん、ピアノのような大譜表も例外ではない。

 これを回避する方法としては、今のところライブコピーを使う方法が確認されている。以下に手順を掲げる。


  1. ライブコピーモードでコピーを行う。

  2. afternote5.jpg
  3. コピーされた小節については、「ユーティリティメニュー>その他のユーティリティ>ライブコピーを通常の小節に戻す」を使って通常の小節に戻す。

 ライブコピーした小節はそのままでもいいと思われるかもしれないが、このライブコピーもバグの巣窟と言われるくらい問題点を多く抱えているので、やはり通常の小節に戻しておくことをお勧めする。ライブコピーの諸々の問題点については......気力があれば、改めて述べるかもしれない(笑)。

 この問題点について、もっと別の解決法の情報をお持ちの方は、ぜひ報告をお願いしたいところである。



09/6/27に追記

 Finale 2010でこのバグは解消された。メデタシメデタシ。

 2006までのFinaleでは、既に長休符として括られている部分に音符を入力しても、長休符が更新されず、冒頭の1小節分しか表示されないという問題があったが、2007からは、これを回避するために、ファイル別オプションの「長休符」の項目に、「長休符の自動更新」というオプションが追加され、デフォルトでオンになっている。


measurerestdlg.jpg

 Finaleの長休符は、括られる小節の数にかかわらず、つねにデフォルトで設定された小節幅になってしまう。しかし、出版譜では、長休符は括られる小節の数に応じて変化させるのが一般的だ。


measurerest1.jpg

 Finaleも長休符小節の幅を手動で変えることができる。しかし、いくら長休符小節の幅を一生懸命に調節しても、「長休符の自動更新」がオンになっていると、スコアや別のパートに切り替えた瞬間にすべてがデフォルトにご破算されてしまうのだ。


measurerest2.jpg

全部同じ幅に戻ってしまった

 「出版譜のように小節幅を変えなくてもいいので関係ないや」と思う人もいるかもしれないが、じつはそうでもない。長休符の直後にクレフチェンジが行われる場合、デフォルトの状態では音部記号が長休符のバーとみごとに衝突する。スペーシングオプションに、音部記号を衝突回避対象に含めるチェックがあるが、長休符にはこれは効かない。この衝突を回避するには、長休符のバーの終点位置を調整する必要があるのだが、「長休符の自動更新」がオンになっていると、やはりこの調整も虚しくご破算されてしまうのだ。


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せっかく音部記号のためのスペースを空けても......

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「長休符の自動更新」がオンになっていると元の衝突した状態に戻ってしまう

 以上のことから、長休符を調整する可能性のある場合は、以下のことに注意する必要があるだろう。

  • 音符入力中は「長休符の自動更新」は必ずオンにしておく。
  • 音符の入力が完了し、長休符の括りが確定した時点で「長休符の自動更新」はオフにする。長休符の調整はこの後行う。
  • もし、長休符内に音符を入力する必要が生じた場合は、「長休符の自動更新」はオフのまま、編集対象の長休符を選択し、「長休符>作成」を使って更新する。

 とりあえずこれを守れば、せっかくの苦労が水泡に帰すことは回避できる。

 しかし、この「長休符の自動更新」オプション、更新するのは長休符の括りだけにして欲しいものだ。

 今でこそ、シェア的にはWindowsユーザーの方が圧倒的に多いFinaleだが、もともとMac用に作られたソフトだったことを知る人は多くないかもしれない。しかし、初期のバージョンのFinaleのおよそMacらしからぬ複雑怪奇なインターフェイスは、当時のMacユーザーの間でも不評だった。Finaleにはいまだに、あるツールを選ぶとそのときだけに出現するメニューがあるが、これは当時のAppleのMac用ソフトのガイドラインにある「モードレスであれ(つねにどの作業もできるべきである)」という精神に逆行するインターフェイスである。今や、FinaleはMacユーザーだけの物ではなくなったが、そういう意味では、いまだにまだ洗練されていない部分を引きずっているソフトとも言える。

 そのFinaleも今年で20歳を迎えようとしている。インターフェイスも試行錯誤のうちに改善され、メインツールパレットのツール数も統廃合されてずいぶん少なくなった。ただ、これは他のメジャーソフトでもあることだが、バージョンアップの度にメニューの項目内容が移動するのには閉口する。例えば、「計測単位」などは、オプションメニュー(2006)→編集メニュー(2007)→Finale 2008メニュー(2008)という迷走ぶりだ(Mac版)。特に今回の2008では、以前の「ブロック編集メニュー」が消滅して「編集メニュー」と「ユーティリティーメニュー」に分散統合され、操作体系もずいぶん変更された。このあたりは楽譜編集にもっともよく使うメニューなので、2008を使い始めた当初は大いに面食らった。いまだに2007以前のクセが抜けきらず、ついついありもしない「ブロック編集メニュー」をマウスカーソルが虚しくまさぐってしまう。

 もっとも、私の友人の作曲家はFinaleを2007から使い始めて、すぐに2008に切り替えたクチだが、彼曰く、「2008は使いやすくなった」のだそうだ。つまり、より使いやすさを求めて熟考に熟考を重ねた結果が現在の形ということなのだろう。確かに、使い慣れてくると、このインターフェイスの方が合理的だなと感じられるようになっていく。

 その2008にもまだ不満がある。「表示メニュー」というものがありながら、「移調楽器を実音で表示」「編集中のレイヤーのみ表示」「パート譜として表示」といった表示に関する項目が、隣の「書式メニュー」にあるのはいったいどういう了見だ?

 Finaleの洗練されたインターフェイスへの道のりはまだまだ遠く険しい。

 Web楽譜批評BBSもネタが尽き、たまに書き込まれる無関係な業者の書き込みを消しては書かれるのイタチごっこに疲れて、去年の夏に事実上閉鎖。

 これまでは、「ブログはやらないの?」の問いをかたくなに拒んできた。理由は、世事に関する徒然なる思いはあるけれど、どうせ既に誰かが似たようなことは書いているだろうし、あまのじゃくな私は、世間の空気と逆のことを考えていることが多く、ただでさえ饒舌なので、ついつい要らぬことを書いてブログ炎上なんてことを起こしかねない(笑)。

 それでも、私にしか発信できない情報もあるだろうし、あわよくば、そのあたりの関連した情報を共有できるかも知れないと調子のいいことを考え、この度知人のサーバを借りることができたのを機に、Finaleに関する情報に限定したブログを始めることにした。

 まあ、どうせ私のことだから、Finaleに限定した話題といいつつ、話はとりとめもなく脱線していくと思われるが、温かく見守ってやってください。

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