2011年11月アーカイブ

 以前の記事「調号にまつわるエトセトラ」の冒頭の繰り返しになるが、Finaleは高機能の楽譜作成ソフトでありながら、「未だにこんなこともできないの?」という部分がまだまだたくさんある。そんな中から今回は臨時記号にメスを入れてみることにする。
 少々言い訳がましくなるのだが、じつはこの記事は「調号にまつわるエトセトラ」の続編として書き進めていたものである。ただ、例年ならそろそろFinaleの次のバージョンがリリースされる時期でもあり、書こうとしていた問題点が新バージョンで解決していた場合、記事としての価値はなくなってしまう。そこで新バージョンのリリースを待っていたわけだが、今年に限ってその新バージョンはなかなかリリースされず、結果としてその間はブログの更新ができなかったことをお詫びしたい。
 結局のところ、先日リリースされたFinale 2012では、幸か不幸か記譜部分についてはこれと言っためぼしい機能の更新はなく、これで晴れて気兼ねなく問題点が指摘できることになった(それはそれで不幸なことではあるが)。


無駄なスペースの多いFinaleの臨時記号配置
 臨時記号はそれ自体がスペーシングに大きな影響を及ぼす存在である。過去の浄書家は臨時記号をいかに少ないスペースに無駄なく効率的に配置するかに腐心し、そのセオリーを確立してきた。その点、Finaleの臨時記号の配置処理はまだまだ不完全である。

 和音に複数の臨時記号が付く場合 、臨時記号同士が重ならないように配置しなければならないわけだが、Finaleには何度の音程まで臨時記号をずらして衝突を回避するかという設定がある。「ファイル別オプション - 臨時記号」にある「垂直方向の衝突を回避する音程」という項目がそれだ。デフォルトでは「6」に設定されているのだが、臨時記号のデザインはその種類によってそれぞれ異なるので、その組み合わせによっては6度以下でも衝突は発生しない。たとえばダブルシャープ同士の場合、Finaleのデフォルトの「6」では衝突の発生しないものまで避けてしまい、無駄なスペースを発生させている(2つ下の譜例参照)。ダブルシャープ同士の場合に限ってみれば、ここの設定は「3」でよいことになる。
 ところで、この項目にある「(半音単位)」というのは「(度数)」の誤りではないのか?


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 さらには、Finaleには「和音に付く臨時記号同士の間隔」という項目があるが(下図のa.の距離)、そもそもこの考え方自体がナンセンスである。一般的な臨時記号の配置セオリーでは、なるべく少ないスペースに収めるべく臨時記号同士を積極的に組み合わせて配置の順番を工夫しているのに対し、Finaleのように横方向に一定間隔に並べていたのでは、どんな順番に並べたとしても臨時記号全体が占めるスペースに変化はなく、配置の順番など全く意味がなくなってしまっている。


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臨時記号の横方向の配置の考え方
左:Finale 右:一般的な配置セオリー


 和音に付く臨時記号同士の間隔については、Finaleのように一律な数値で固定されるものではなく、 臨時記号の組み合わせによって変化すべきものなのである。次の譜例の下段は無駄なスペースを埋めるべく、手動で臨時記号を調整したものである。


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 もうひとつは、下向き符尾のクラスターを含む和音に付く臨時記号の問題点である。クラスターとは一般的な音楽用語では密集配置の音を意味するが、浄書用語に限っては2度音程の和音のことを指す。下向き符尾の場合、クラスターの下側の符頭は符尾の左側に飛び出して付く。臨時記号は飛び出した符頭を避ける必要があるが、Finaleでは臨時記号は飛び出した符頭の左端を基準に配置されるので、結果として飛び出した符頭に影響されない位置の臨時記号まで不必要に避けてしまい、ここでもスペースを浪費している。このような臨時記号は符頭の飛び出しとは関係なく本来の位置に配置されるべきである。


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 和音に付く複数の臨時記号の配置については、和音の状況によってフレキシブルな対応が求められるのだが、現在のFinaleはどのようなケースにおいても一律なセオリーでしか対応できない。


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 これまでの説明を聞いている限りでは、別に臨時記号が衝突をしているわけでもなし、この程度のスペースなんて気にすることではないのではと思われる方もいるかも知れない。しかし、次の譜例をご覧いただければ、なぜここまでスペースの調整にこだわるのかが理解いただけるのではないだろうか。


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 ところで、上記の臨時記号に関するオプションには、「臨時記号と符頭の間隔」と「和音に付く臨時記号同士の間隔」の値を「0」にして保存し、そのファイルを再度開くと、どちらも勝手に「8EVPU」になってしまうという不可思議なバグがある。


問題点山積の複声部の臨時記号処理
 これまで述べてきたことは、どちらかというと浄書家の視点からの問題点であり、実用面からすれば、少々見てくれは悪いとしても楽譜として破綻しているわけではない。しかし、Finaleには実用面において支障を来すような問題も抱えている。

 臨時記号に関するオプションの中に「異なるレイヤーの臨時記号を自動的に避ける」という項目がある(上記のダイアログ参照)。どういう機能なのかは次のような楽譜を作成し、このオプションをオフにしてみれば一目瞭然である。ちなみに、高速ステップ入力枠内では編集中のレイヤーしかアクティブにならないので、このオプションをオンにしていても、臨時記号はオプションをオフにした状態の配置で表示される。


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「異なるレイヤーの臨時記号を自動的に避ける」オプションの効果
左:オン 右:オフ


 意外に思われるかも知れないが、じつはこのオプションはFinale 2004になってやっと実装されたものである。それまでは複声部の臨時記号はつねに右側の状態になり、衝突した臨時記号は「道具箱ツール」の中の「臨時記号調整ツール」でひとつひとつ修正していくしかなかった。
 では、なぜ「臨時記号の衝突を自動的に避ける」などという当たり前のようなオプションがわざわざ存在するのかという疑問が生じるが、それにはやむを得ない事情がある。衝突した臨時記号を手動で修正した2003以前のファイルを2004以降で開いた際、臨時記号の自動衝突回避が無条件で機能すると、回避されたポジションにさらに修正によって移動させた分の距離が加算され、かえって不自然な配置になってしまうのである。つまり、このオプションは旧来のファイルで行われた手動による修正状態を保持するためだけに設けられたものなのだ。
 ところでこのオプション、オン/オフをする際に手動による調整が解除される旨のアラートが表示される。これで旧ファイルの手動調整を一気にリセットできるので、万事解決するじゃないかと思いきや、そうは問屋が卸さない。Finaleの臨時記号の配置処理にはまだまだ解決すべき問題が残されており、せっかく修正したものがリセットによってかえって不適切な状態になってしまうこともあるからだ。リセットによって完璧な配置になるのであれば、そもそもこんなオプションなんか要らないわけだが、これを残さざるをえないところにFinaleの苦しい胸の内が伺える。
 じつは、Finaleには未だにこういった過去の不完全な設計とのつじつま合わせをするためだけのオプションがいくつか存在し続けている。このあたりはあらためて記事としてまとめてもよいと思っているのだが、Finaleは過去の遺物とも言えるこういったオプションを一体いつまで継承し続けていくつもりなのだろうか? 百歩譲って、過去のファイルとの互換性のために必要であるとしても、せいぜい「プログラム・オプション - 開く」の旧バージョンのファイルを開く際のオプションとしてひっそりと存在させるべきで、不用意に触ってしまう可能性のあるユーザーの目に付く場所に置かれる類のものではないと思う。

 前置きが長くなってしまったが、次の例を見ていただきたい。
 符頭を共有する複声部に付く臨時記号は共有されるものだが、Finaleではなぜかご丁寧にそれぞれの声部に付く臨時記号同士を避けてしまい、結果として二重に表示されてしまうのである。シャープやナチュラルについてはありえない表記なので、その異常さにすぐに気が付くが(※注)たまたまフラットが単独で現れた場合、ダブルフラットに誤読されてしまう危険性がある。これを回避するには、どちらかの声部の臨時記号を手動で非表示にするしかない。

※注:古い時代には、ダブルシャープをシャープを二つ続けて書く書法も一部で存在した。


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 皮肉なことに、上記の「異なるレイヤーの臨時記号を自動的に避ける」のチェックを外すと、臨時記号はぴったりと重なって表示され、見た目としては正しい表記になる(プリンタによっては若干太く印刷されることがある)。しかし、楽譜中の複声部に付く臨時記号がこのケースしかないといったレアな状況でもない限り、この表記のためだけにこのオプションを利用するというのもそもそも無理がある。

 Finaleには、下声部にクラスターが含まれている和音に付く臨時記号が正しい位置に表示されないという問題もある。
 次の譜例では上段がFinaleのデフォルトの状態であるが、臨時記号の配置が不自然である。この下声部の左側に飛び出した符頭が上声部の符頭の左端に揃うように下声部全体を右にずらすと、下段のように臨時記号の配置は正しくなる(緩い配置であることについては不問とする)が、もちろん音符の配置としては誤りである。


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 つまり、下声部の臨時記号について、Finaleは左側に飛び出した符頭の幅を計算に入れることをすっかり忘れているのである。
 上段の状態を放置するわけにはいかないので、当然臨時記号は手動で修正する必要がある。さて、将来この問題が解決されたとき、それまで手動で修正した臨時記号はどう扱うのか? ここでこの項の冒頭で述べた問題が再燃する。Finaleはまた新たに「異なるレイヤーの2度和音に付く臨時記号を解決する」などというオプションを付けるのだろうか?

 さらには、「異なるレイヤーの臨時記号を自動的に避ける」というオプションは、じつは「看板に偽りあり」である。
 次の譜例では、臨時記号の存在は全く無視されている。


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 もっともこの例に限って言えば、実際は臨時記号だけの問題ではなく、旗や付点についても同様であり、つまるところ、Finaleは異なるレイヤーの間でのエレメントの衝突については全く考慮がなされていないということになる。


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 現時点ではこの衝突を自動的に避ける手段はなく、手動でスペースを確保して調整するしかない。確保の方法はいろいろ考えられるが、それだけで一つの記事が書けそうなので、そのあたりについてはいずれかの機会に預けたい。


 今回の問題点は、バグというより単なる設計ミスの範疇に入ると思われるが、世界標準を標榜する楽譜作成ソフトとしてはかなりお粗末な状態だと言えはしまいか。このFinaleの不完全な設計のせいで、多くのユーザーが不毛な修正作業を強いられるか、もしくは修正されないままの不適切な楽譜が世に出回り続けるかのどちらかである。開発元にはこれらの根本的な解決に本腰を入れてもらいたいものだ。

 ここ数年は梅雨の頃に発表されていたFinaleの次期バージョンだが、2012についてはなかなかリリースされなかった。リリースが遅れることについては開発元から早くからアナウンスされていたが、その理由については具体的には触れられておらず、ユーザーからは「ライバルソフトのSibeliusを凌駕する新機能が実装されたのではないか」、「いや、7月に発表されたMacintoshの新OS"Lion"に対応させているんだろう」、「会社自体がやばいんじゃないか」等々の憶測を呼ぶことになった。はたして秋も中旬に差しかかった頃、バージョン2012はそのヴェールを脱いだわけであるが、じらされたユーザーの期待に応えられるだけの新機能はあったのか? 早速今回も紹介してみよう。


Finaleも遂にダウンロード販売に
 Finaleは2012からはダウンロード販売になった(従前のパッケージ販売も平行して行われている)。MakeMusic社のサイトからダウンロード後、1ヶ月間は機能制限なしの製品版として試用できる。製品購入後シリアル番号を入手して認証を経ないと、1ヶ月を過ぎると印刷や保存ができなくなるといった仕組みのようだ。ただし、付属のGarritan音源だけは認証を経ないとダウンロードできないようになっている。もちろん、すでにFinaleを持っている人は2012で新たに追加された音色が使えないだけで、旧来のGarritan音源はそのまま利用可能である。
 このダウンロード販売方式への移行は、Appleの提唱するAppStore経由でのアプリケーションソフトの販売方式を見据えたものと思われる。
 なお、日本語版がどういう販売形態を取るかは現時点では不明である。


スコアの属性とプレイバック音源を一元管理できるScore Manager
 Finale 2012では、スコアの管理を「ファイル情報」と「楽器リスト」と「五線の属性」ダイアログの一部が統合されたScore Managerというフローティングウィンドウで一元的に行うようになった。


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Score ManagerのFile Info(ファイル情報)のページ(クリックで原寸表示)
機能は従来と変わりない


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Score ManagerのInstrument List(楽器リスト)のページ(クリックで原寸表示)


 Instrument List(楽器リスト)のページでは、上側に従来の楽器リストが、下側にこれまで「五線の属性」ダイアログで行っていた楽器名や移調等の設定が配置されている。これに伴い、「五線の属性」ダイアログからはこれらの機能が消滅している。
 楽譜を新規に作成する場合は、従来通りセットアップ・ウィザードを利用すればよいのだが、Score Managerはセットアップ・ウィザードの機能も備えており、ここで楽器の追加や削除、並び替えを行うことができる。五線の追加は"Add Instrument"から選択、削除はリストの右端の×印をクリック、並び替えはリストの左端のリストアイコンまたは楽器名を掴んでドラッグとインターフェイス的にも分かりやすくなっている。これらの編集は即座に楽譜に反映されるので、実際に楽譜を見ながら作業が可能だ。ここでは楽器ごとにプレイバック音源のデバイスを設定することもできる。

 ユニークな新機能として、同じパートの奏者の序列表記を5つのフォーマットから選択できるようになっている(上図"Auto-Number Style"ポップアップメニュー参照)。ただし、セットアップ・ウィザードから新規作成した場合は、従来通り無条件で一番上の"Instrument 1, 2, 3"のフォーマットになるので(Violinについては"Instrument I, II, III"のフォーマットになる)、他のフォーマットに変更したい場合は、Score Manager上で1パートずつ手作業で変更しなければならないのが難点だ。せめて全体を一括して変更する手段を用意するか、もしくは、セットアップ・ウィザードの方にもフォーマットの選択を用意してもらいたかった。次のバージョンかアップデートでの改善に期待したい。


パート中の楽器変更がより簡単に
 例えば、オーボエパートが曲の途中でイングリッシュホルンに持ち替える場合、これまではイングリッシュホルンの移調設定や楽器名の設定を仕込んだ楽譜スタイルを作成して、それを持ち替え部分に適用させる必要があった。さらに、プレイバックに対応させるには、音色パッチないしはMIDIチャンネルを変更する「仕込み」を発想記号で作成し、持ち替え部分に貼り付ける必要があった。2012からはこのような楽器の持ち替えについても、プレイバックの設定ともども簡単に管理できるようになっている。
 操作はいたって簡単である。例えば、オーボエパートの22小節から29小節をイングリッシュホルンに持ち替えたい場合、その楽譜範囲を選択し、ユーティリティメニューに新設された"Change Instrument..."を選択すると現れるダイアログにて変更したい楽器を選択するだけである。OKをクリックした瞬間、楽器名や移調表記も即座に楽譜に反映される。


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 Score Managerにてオーボエパートの▲印を倒して内容を確認してみると、そこにはイングリッシュホルンが追加され、チャンネルやパッチも適切に選択されていることが分かる。"Start"欄の数値はその楽器変更が開始される小節を示し、変更を修了した次の小節で自動的に元の楽器に戻るように設定されているという按配である。


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Score Managerで途中変更した楽器の設定を確認(クリックで原寸表示)


 なお、楽器の変更や移調設定についてはScore Managerで一元的に管理することになったので、「五線の属性」ダイアログの設定を踏襲している楽譜スタイルにおいても移調設定に関する定義はできなくなっている。したがって、楽譜スタイルで移調楽器を設定していた旧バージョンのファイルを開いた場合、その部分は自動的にScore Managerの該当パートに変更楽器として小節の範囲と共に追加されることになる。なお、楽譜スタイルにはプレイバックに関する設定は仕込めないので、追加された楽器のプレイバック属性については元のパートの設定がそのまま踏襲されている。もっとも、変更部分のプレイバックに関する設定は別途発想記号で仕込んであるだろうから、Score Managerでは特に何もしなくてもそのまま以前のプレイバックは再現できるはずである。
 この仕様変更に伴い、旧ファイルを開くと、移調設定が含まれていた楽譜スタイルは強制的に削除されるようだ。


StaffStyleList.jpg

Finale 2011に付属している"Maestro Default"の楽譜スタイルのリスト(左)
このファイルを2012で開いてみたところ(右)。赤枠の楽譜スタイルは読み込まれていないことがわかる。
なぜ"Maestro Default"かというと、英語版で日本仕様のファイルを開くと、リストが文字化けするため。


Unicodeへの対応
 Unicodeはあらゆる言語の文字や記号を一元的に管理できる文字コードシステムだが、遂にFinaleもこれに対応した。これでキリル文字やハングル、中国簡体字等の文字入力、日本語においても「はしご高」や「土吉(つちよし)」等の異字体表現が可能になった。これに伴い、2011で発生していた日本語歌詞のクリックによる割り付けで、歌詞ウィンドウでハイライトされている文字と実際に割り付けられる文字が対応しないバグは解消された。


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中国簡体字による歌詞入力


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異字体の入力も可能


 「キャラクタの選択」画面で選択可能なキャラクタも、これまでの256キャラクタから、それぞれのフォントが持っているキャラクタの数に応じて拡張される。このキャラクタ選択方法は符頭等の変更にも有効なので、実用的かどうかは別として、楽譜中のエレメントとして使用できるキャラクタの選択肢は大幅に増えることになる。


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Mac版の日本語CIDフォントのキャラクタ選択画面
JISの配列とは異なっている


 なお、「キャラクタの選択」画面では、日本語フォントについては、Mac版の場合、CIDフォントでは上記の通り仮名や漢字もリストに表示できるが、システムフォントのヒラギノをはじめとするOpenTypeフォントでは仮名や漢字部分はなぜかリストに現れない(下図)。このあたりがどういう仕組みになっているのかもう少し検証してみたいところだ。


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ヒラギノフォントのキャラクタ選択画面
ここに表示される数字はそのフォントが持っているキャラクタの言わば「通し番号」であって、
同じキャラクタであってもフォントによって番号が異なることに注意。
上記のリュウミンライト(モリサワフォント)では、ひらがなの「あ」は635番になっているが、
他のフォントの635番が「あ」であるとは限らない。
キャラクタの指定はコードポイント("U+xxxx"で表される文字コード)で行う必要がある。


 上記のような特殊な文字入力をふだん必要としない人にとっては、FinaleがUnicodeに対応したことの意義はあまり感じられないかも知れない。しかし、上記でも触れた歌詞編集におけるバグが解決されたことからも分かるように、Finaleがあらゆる言語に対応したということは、すなわちこれまで散々悩まされてきたFinaleの日本語環境固有のトラブルからの解放を意味し、これは結果的に日本のユーザーにとっても福音となるはずである。


新しいマクロ機能
 「知っておくと便利」的な機能だが、「−(ハイフン)」キーを押しながら操作すると、ツールごとの直近の操作を行ってくれるという繰り返し機能が追加された。
 例えば、アーティキュレーションツールである音符にアクセントを付けたとする。すると、次からは「−」キーを押した状態でクリックまたはドラッグするだけで目的の音符にアクセントが付くというものだ。直近の操作はツールごとに記憶されるようで、一旦発想記号などの別のツールで同様の操作をしてそのツールでの操作を記憶させた後、再びアーティキュレーションツールに戻って同様の操作をしてもちゃんとアクセントが再現される。
 すでにマクロが仕込まれているものについては、従来通りにそれぞれのマクロキーを使えばすむ話だが、マクロが仕込まれていない記号を付ける場合にはこの機能は重宝するかもしれない。
 ちなみに、JIS配列のキーボードでは「−」キーはShiftキー併用で「=」キーに対応するので、機能としては憶えやすい。もっとも、あちらの開発者がJIS配列を念頭に置いてこのキーを割り当てたとは考えにくいので、これは偶然の産物だろうが。


久しぶりに追加されたプラグイン
 ここ数年、新たなプラグインのバンドルは途絶えていたのだが、久しぶりに3つの新たなプラグインが追加された。もっとも、そのうちの2つはバリエーションの違いといったもので、実質的には2つということになるが。

 まず1つは、ページ内の組段同士の間隔を調節するプラグイン。すでにFinaleにはページ・レイアウトメニューに「組段の均等配置」という似た機能があるが、このプラグインではページの上下に余白を加えたり、間隔の取り方をいくつかのパターンから選択できるようになっている。


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 ただ、実際に試してみたが、スラーや加線の多い音符等の「五線からの飛び出し」を加味した配置が行われるわけでもなく、従来の「組段の均等配置」の機能との差別化は今ひとつ見い出せなかった。このプラグインの有用性についてはもう少し研究をしてみたい。
 ちなみに、いきなりv 2.00となっていることから、すでに何度かの改良を経たものであることがうかがえる。

 もう1つは、2011からバンドルされたAlphaNotesフォントによる符頭表記を、楽譜の任意の場所に適用させるというプラグインである。
 じつは、2011から用意されている楽譜スタイルの「Apply Finale AlphaNote Notenames※注」でも同様の機能が実現できるのだが、こちらは五線位置に1つの符頭を対応させる「特殊な符頭」機能を利用しているので、幹音にしか対応できず、派生音は無視されていた。

※注 英語版のデフォルトファイルMaestro Defaultの楽譜スタイルには"Apply Finale AlphaNote Notenames"と"Apply Finale AlphaNotes Solfege"の2つが用意されているのだが、なぜか日本語版2011のデフォルトファイルKousaku Defaultでは前者は削除されていて、後者のみ「AlphaNotes ソルフェージュの適用」として残されている。

 今回追加されたプラグインでは、「特殊な符頭」機能を使わず「符頭変更ツール」で一音ずつ対応させているので、派生音にも臨時記号付きで対応している点が大きく異なる。


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 なお、AlphaNotesフォントにはダブルシャープやダブルフラット付きの符頭キャラクタは用意されていないので、これらの音程の符頭は文字の書かれていない通常の符頭キャラクタに変換される。


新たなフォントのバンドル
 2012には和声記号や通奏低音の表記用としてFinale Numericsフォントがバンドルされた。このフォントの特長は、文字幅0というギミックを使って同じ位置に複数の文字や記号を積み重ねることで、3段までの度数を通常のテキストとして表記できる点にある。これまでFinaleに付属していた通奏低音ライブラリはコードネーム機能を利用したものだったが、マニュアルによると、このフォントでは歌詞機能を利用するように勧めている。


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ローマ数字を省略すればそのまま通奏低音として使える


 和声記号の様式は国や和声システムによっても異なり、このフォントであらゆるタイプの和声記号に対応できるわけではない。例えば、日本の和声書で一般的に見られるような、借用和音の借用される度数を上部に小さく載せる書法には対応できない。このような表記を行いたければ、和声記号を合成するか、もしくはストーンシステムから販売されている「和声記号フォントパック」を利用するしかない。


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このような和声表記には対応していない


 また、譜例をご覧いただけるとお分かりの通り、Finale NumericsフォントはTimeフォントをベースに作られているため、外観をそれ以外のフォントに変更することはできない。

 もうひとつ、手書き風のFinale Copyist Textフォントがバンドルされた。このフォントは2010からバンドルされた記譜用フォントBroadway Copyistフォントに対応したものである。Jazz Textフォントほどポップではなく、フェルトペンで楷書された趣の書体である。なお、このフォントはJazz Textフォントと同様、スモールキャピタルフォントなので、コードネームとして使う場合、"Am"等の表記はできないことに留意する必要がある。


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Finale Copyist Textフォントを使った文字。記譜フォントはBroadway Copyistフォントを使用


その他の新機能
・グラフィックの書き出しにPDFが加わった。

・Garritanサウンドに数種類の楽器が追加された。

・他人にデータを渡した際にもプレイバック音源が再現されるようにサウンドマップを用意した。

・追加したMIDIデバイスを即座に検出するようになった。

MusicXML 3.0に対応した。


 以上、駆け足で2012の新機能について紹介したわけだが、確かに、Score Managerによる楽器管理をはじめ、細かな部分の利便性の向上に力を注いだことはそれなりに評価できる。しかし、このソフトの根幹とも言える楽譜作成の部分についてはほとんど進展が見られなかったことは残念の一言に尽きる。このブログでは、例年なら新バージョンのレビューには2回分を費やしていたのだが、今年に限っては1回で済んでいる点からも今回のバージョンアップ内容の乏しさをうかがい知ることができよう。例えば、楽譜エレメントの衝突回避策を講じたレイアウト整形などは、ライバルソフトに大きく水をあけられている感があり、その他にも楽譜作成ソフトとしてまだまだ改善すべき課題は多く残されているはずである。このあたりについては、本家のフォーラムにおいてもリリース直後からユーザーから失望の意見が多く寄せられていた。しばらくすれば日本語版もリリースされるだろうが、日本のユーザーの目には今回のバージョンアップはどう映るのだろうか。

 先日、Finaleの開発元であるMakeMusic社が、MusicXMLを開発しているRecordare社を買収するという発表があった。MusicXMLは現時点における楽譜表記のデファクトスタンダードであり、その技術を手中に収めることでMakeMusic社はこの業界の主導権を握ろうとしているのだろう。その意気や良しではあるが、それならそういうメーカーに相応しい楽譜作成ソフトを今後とも提供してもらいたいものである。

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