2012年6月アーカイブ

 私を含め、楽譜の版下製作に携わっている者は他人の作成したFinaleデータを編集する機会が非常に多い。Finaleによる版下製作はDTPとの連携の良さからほぼ100% Macintosh上で行われているのが現状だが、世の中全体から見ればFinaleユーザーはWindowsユーザーのほうがはるかに多く、版下製作の現場でも必然的に彼らのデータも扱うことになる。
 Finaleでは同じバージョンのファイルであれば、OS間の互換性は完全に保たれているはずなのだが、フォントなどのシステムに依存する部分に表現の差異があり、とりわけ日本語環境下でのOS間のファイル交換時には、これまでもいろいろなトラブルが発生していた。

 最近、Windows版Finaleで作成されたファイルをFinale 2011で開き、発想記号を貼り付けようと楽譜上をクリックした瞬間にFinaleが強制終了してしまうというトラブルをしばしば耳にすることがあり、実際、私も体験した。
 これについていろいろ原因を調べてみたところ、発想記号カテゴリに日本語名の新たなカテゴリが追加されている場合に発生しやすいことが判明した。どうやら、このカテゴリ名をコンバートした際に文字コード変換ミスが発生してしまうようで、発想記号カテゴリ名のリストが表示されるダイアログであれば、「発想記号の選択」の他にも「発想記号カテゴリの設計」ダイアログを開こうとした場合にも強制終了してしまう。ためしに、変換ミスが発生したカテゴリの発想記号をコンテクストメニューから開いてみると、カテゴリ名が文字化けしていることが分かる。


ExpressionDesigner.jpg


 この症状が発生した場合は、「プログラム・オプション - 開く」内の、「テキストのコンバート:他のOSからのファイルの欧文特殊文字を自動的にコンバート」のチェックを外そう。この設定でファイルを開き直せば強制終了は発生しなくなる。


ProgramOption_Open.jpg


 このオプションは、Windows版で作成されたファイルのテキストに含まれる「ö」や「ù」等のアクセント付き文字を正しくコンバートするために設けられたものだが、一方で発想記号の注釈や楽譜スタイル名が文字化けしてしまうという副作用も発生する(これはFinale 2012では解消されている)。元のファイルにドイツ語やフランス語などのテキストが大量に含まれているというケースでもなければ、ここのオプションは基本的にオフにしておいたほうが良さそうだ。


 今回の記事はMac版2011のみに発生するトラブルということで、すでに2012がリリースされて半年近く経つ現時点の記事としては少々旬を外している感もあるのだが、楽譜版下製作の現場では未だに2011が多く使われており、じつは先日もネット上でこのトラブルが話題になったくらいである。イーフロンティアの旧FAQやMI7のFAQにもこのトラブルの情報は上がっていないようなので、この記事が同じトラブルに遭遇したユーザーの手助けになれば幸いである。

※ 12/6/4にiPadアプリについて記事追加

 Finale 97よりこれまで約15年間、バージョンナンバーとして年号を付加した新バージョンを毎年リリースし続けてきたFinale。リリースが秋にずれ込んだ去年は別として、毎年この時分になると次期バージョンの発表が行われてきたわけだが、今年の発表の内容はいつもとは違った。「Finaleの次期バージョン」と題された5月29日付のそのブログ記事には、「我々はFinaleを毎年リリースし続けるというこれまでの伝統を止めることにした。今年のFinale 2013のリリースはない」と書かれている。

 じつはこの長年続けられてきた毎年のバージョンアップ、古参のユーザーからは極めて評判が悪かった。特定のツールに対象を絞った限定された改訂、最近のどちらかといえば楽譜作成とは関係ない部分の強化、そしていつまで経っても放置され続けるバグ等々......。ここ数年、新しいバージョンがリリースされる度に、「どうしてこんな小改訂のために毎年バージョンアップさせられなければならないのだ」というユーザーの不満の声があちらこちらから聞こえていた。
 もともと、楽譜作成ソフトという商品自体そんなに大きなマーケットがあるわけではなく、最近は競合ソフトとのユーザーの奪い合いの様相を呈している状態である。開発側の事情からすれば、ソフト開発のための資金調達にはとりあえずバージョンアップを繰り返すしかなく、また競合ソフトのユーザーを引き込む手段としても何か目新しい機能を付加しなければならないわけだが、そういった姑息とも言える手法が既存のユーザーを辟易とさせてしまった感は否めない。そんな空気をひしひしと感じたのか、開発元のMakeMusic社も、自分たちの都合よりもユーザーの意見に耳を傾けることの大切さにやっと気付いたということだろう。
 また、去年の2012のリリースの大幅な遅れからも分かるように、新機能の検証には十分な時間が必要であり、1年サイクルで新バージョンをリリースし続けることに限界を感じたという部分もあるだろう。さらには、ここのところMakeMusic社は、MusicXMLを開発しているRecordare社やソフト音源を開発しているGarritan社を立て続けに買収しており、それらのライセンス収益によって開発費に余裕ができたのかもしれない(私は経営アナリストではないので、このあたりの事情はあくまで素人の推測に過ぎないが)。今回のMakeMusic社の判断はそれらを総合的に勘案したものだと思われるが、ある意味やっと健全な方向に向かったと言うべきだろう。
 さて、その発表によると、本家では6月中に2012のアップデート版がリリースされるという。日本語版のアップデート開始は盛夏の頃になるだろうか。じつは、日本語版2012については既にいろいろな不具合の情報が集まっているのだが、これまで抱え続けてきたバグ等とも合わせて、次回のアップデートでそのあたりがどの程度解消されているか注目していきたい。


 一方では、iPad用Finaleに関する興味深いニュースも。
 かつて、イーフロンティア時代のメールニュースにて、MakeMusic社の営業担当者がiPad用アプリについて意味ありげな発言を行っていたことがあるが、ついにそれが"Finale SongBook"という名称で近日中にリリースされるらしい。
 ただし、ブログの下に続くコメントのやりとりを読む限り、このアプリはFinale Reader(現在、Finale NotePadが再び無償提供されたので配布停止)と同様、閲覧とプレイバックと印刷ができるのみで、入力編集機能は備えていない。開発中のものがすでにYouTubeで紹介されているが、実際の商品ではインターフェイスなどは大幅に変更されているという。



開発中のiPad用アプリ


 iPad用アプリなので、英語版については日本からもApp Store経由で簡単に購入できるだろうが、Finaleのローカライズ事情の複雑さから日本語版が出るかどうかは不明である。閲覧専用ソフトという意味では複雑な機能もないだろうし、英語表示でも問題なく使えそうだが、日本語版独自のフォントを使っている場合、表示が正しく行われるかどうか課題も残りそうだ。


12/6/4に追記

 このアプリ、既にリリースされていた。入手はこちらから(無料)。
 プレイバック用のサウンドフォントを持たせているため、71.3MBとサイズが大きいが、これは致し方ないところだろう。なお、情報筋によると、やはり現時点では日本語版のフォントには対応できていないらしい。しかし、今後のバージョンアップで対応予定とのことである。
 私はiPadを持っていないので、このアプリを検証できないのが残念である。



 ところで、このアプリが上記のメールニュースでMakeMusic社の営業担当者が述べている「それ以上のビッグ・プロジェクト」と呼ぶほどの新商品とも思えないので、MakeMusic社はまだ「隠し球」を準備していると見たほうがいいだろう。


 なにはともあれ、今後のFinaleを取り巻く状況が少しずつ良くなっていくことを期待したい。

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