Finale 2014レビュー

※ 13/11/28に変形図形の解説を改訂

 去年(2012年)6月、Finaleの開発元のMakeMusic社は、これまで続けてきた毎年の新バージョンのリリース方法を止めるとアナウンスした(過去記事参照)。そして、11月4日、前回のバージョンアップから約2年ぶりに新たなバージョンがリリースされた。
 巷では新バージョンの名称について、「毎年のリリースを止めたんだから、もはやバージョン名に年号を付ける意味はなく、Windows OSがそうだったように、初期のようなの8.0とかの呼び方に戻るんじゃないか」とか、「心機一転、AdobeのCSシリーズみたいな新名称になるのではないか」などと噂されていたが、結局1年飛ばしたFinale 2014という名称で発表された。ちなみに、Finaleはバージョン97から毎年リリースを続けていたが、Finale 99というバージョンは存在しない。なぜなら1999年にリリースされたのがFinale 2000だったからである。


変更されたインターフェイス
 まず、アプリケーションのアイコンのデザインが一新された。じつはこのデザイン、既にリリースされているiPad用のFinaleビューワーであるFinale SongBookのものと共通したものになっている。


Finale2014Icon.jpg


 起動画面や起動パネルのカラーリングも一新されている。最近、本家のMakeMusicのサイトを訪れたことのある方は既にお気付きだと思うが、本家サイトのカラーリングと統一されていることが分かる。


FinaleStartup.jpg

Finale 2014の起動画面。バージョン名は明記されていない


 この青緑系のカラーリングは、ミキサーを始め、ファイルのアイコンなどFinaleのさまざまなグラフィカルインターフェイスに踏襲されている。


Mixer.jpg

Finale 2014のミキサー


 Windows 8をはじめ、Appleの携帯端末用の最新OSのグラフィカル・インターフェイスは、スキューアモーフィズム(現実的表現)を排したシンプルでフラットな表現への転換が潮流だが、Finale 2014もその流れに沿ったデザイン変更がなされている。なお、インターフェイスについての記述はMac版を元に書かれているので、Windows版のものとは異なっている部分があることをご了承いただきたい。


Appearances.jpg

Finale 2014の外観(クリックで原寸表示)


 順に追って見ていこう。
 まず、ツールパレットがシンプルなデザインになった。これまでのツールパレットはユーザーの好みでいくつかのデザインから選択できるようになっていたが、2014からは「旧バージョン」パレットに似た一種類のみになり、ユーザーの選択肢はなくなった。その新しいアイコンのデザインだが、慣れてしまえば気にならなくなるのかも知れないが、妙に説明的になりすぎたせいか、今ひとつ洗練されていない印象がぬぐえない。私はこれまではステップ入力パレットが編集中のレイヤーの色に応じて変化する「旧バージョン」を使っていて、編集中のレイヤーの確認を視覚的に行っていたのだが、2014のパレットではこの色の変化がなくなってしまったのが残念である。なお、これらのパレットはマグネットのようにお互いに吸着し合うようになっている。 

 プレイバックコントローラーもモノトーンでフラットなデザインに変更されている。また、これまでアイコン表示だったプラグインメニューが文字表記に変わっている(Windows版はもとより文字表記だった)。

 Mac版2014はCocoaの開発環境で完全に作り替えられ、OS 10.7(Lion)以上の標準機能であるフルスクリーンモードにやっと対応。それに伴い、上部にあったメッセージバーがウィンドウ下部のナビゲーションコントロールの横に移動している。処理の進捗を示すプログレスバーもここに表示される。

 あと、楽譜内容をドラッグコピーする際、これまでは範囲を示す枠しかドラッグされなかったが、2014からは楽譜内容そのものがドラッグされるようになり、視覚的に確認しやすくなった。些細なことだが、こういう改善は評価したい。


DragCopy.jpg

楽譜のドラッグコピーの際、楽譜内容が表示される


 ただし、ファイル間のドラッグコピーができなくなっている。仕様変更ということも考えにくいことから、単なるバグなら早急に改善して欲しい。


14/1/19に追記

 1月8日にアップデートされたFinale 2014aにてこのバグは解消された。



 道具箱ツールでの編集で、ハンドルをドラッグした際、ハンドルを離す瞬間まで変更前の状態が残像として残るようになった。ただ、他のツールでの同様の操作ではこの現象は生じず、インターフェイスのちぐはぐさを感じる(Finaleのインターフェイスの不統一は他にもあるが)。


SpecialToolsEdit.jpg

音符移動ツールで2分音符をドラッグしている状態


無調表記に標準対応
 これまでも移調楽器が含まれているスコアでの無調設定は可能ではあったとはいえ、決して分かりやすいものではなかった。2014からはその無調設定が簡単に行えるようになった。セットアップ・ウィザードから新規作成した場合は、調設定のメニューに加わった「Keyless」を選択するだけだ。


Keyless1.jpg


 また、調性部分と無調部分が混在するような曲では、これまではどちらかの部分の移調設定を施した楽譜スタイルを移調楽器の種類の数だけ作って対応させるという面倒な作業が必要だっが、2014からは調号ツールにて転調時に「Keyless」を選択するだけで済む。


Keyless2.jpg


 さらには、これまでも多くのユーザーから要望の多かった、調号を付けないティンパニや古典的なホルンの表記にも標準対応した。セットアップ・ウィザードなどで通常の移調楽器として編成を組んだ後、スコア・マネージャーにて対象楽器について移調設定項目に新たに加えられた「Hide Key Signature & Show Accidentals」にチェックを入れるだけだ。当然のことながら、他のパートから音符をコピーした場合も臨時記号は正しく表示される。


Keyless3.jpg

(クリックで原寸表示)


レイヤー間の臨時記号処理が強化
 同一小節内で異なるレイヤーで書かれた臨時記号について、自動的に再表記させることが可能になった。


LayerAccidentals1.jpg


 これは「五線の属性」にて五線毎に設定を変えることができるので、オーケストラスコアなどで、複数パートを異なるレイヤーで書き分けているパートでは有効にし、ピアノパートでは無効にするといった使い分けができる。


LayerAccidentals2.jpg


 ただし、「警告の臨時記号」プラグインはこの仕様にはまだ対応していないようだ。


LayerAccidentals3.jpg

矢印のB音には自動的にナチュラルは付かない


 また、異なるレイヤーで共有する符頭に付く臨時記号がダブって表示される問題もようやく解消した。


LayerAccidentals4.jpg

2012までの表示


LayerAccidentals5.jpg

2014の表示


 ただし、やはり「警告の臨時記号」プラグインはこの仕様にはまだ対応していないようだ。


LayerAccidentals6.jpg

上の状態から「警告の臨時記号」を適用すると、やはりダブって表示されてしまう


 なお、このあたりの強化と関連しているかどうかは定かではないが、さりげなく「ユーティリティメニュー>その他のユーティリティ」および「高速ステップ入力メニュー」にあった「臨時記号をチェック」という項目が廃止されている。


複数レイヤーで共通の休符をまとめて表示する機能
 複数のレイヤーに存在する同拍上の同じ音価の休符について、自動的に1つにまとめることができるようになった。どちらの表記にするかは、「ファイル別オプション - レイヤー」にて決定できる。


CommonRest.jpg

上:従来の配置 下:このような表記も可能


変形図形の仕様変更 ※ 13/11/28に改訂
 松葉やトリル記号など、これまで小節に所属していた変形図形が拍に所属するようになった。具体的には、発想記号やコードネームと同様、変形図形の始点終点は拍頭、各音符/休符の頭、右小節線の直前の各ポイントに所属するようになり、所属ポイントを示すインジケーターが表示されるようになっている。


SmartShape1.jpg


 では、小節に所属していたものが拍に所属することによって何が変わるのか?
 2012までの小節に付く変形図形の始点終点は、小節に対して絶対的な位置に所属していた。したがって、一旦描いた変形図形は小節の伸び縮みとシンクロして伸び縮みし、結果として記号との衝突が発生したり、逆に記号との間に必要以上の隙間ができていたりしていた。


SmartShape2.gif

2012までの松葉


 2014からの小節に付く変形図形の始点終点は、上記にも述べたように、拍の頭、音符/休符の頭、右小節線の直前の各ポイントに所属し、各ポイントからの相対的な距離に配置されるようになっている。こうすることによって、小節の幅がどんなに変わっても変形図形の始点終点はポイントからの距離が一定に保たれ、記号との衝突や不自然な隙間は生じなくなった。


SmartShape3.gif

2014の松葉


 なお、2012以前に作られたファイルを2014で開いた場合は、変形図形の始点終点の所属についてはこれまでどおりなので、改めて2014方式に所属を変更しなおさない限り、従来の問題は依然発生することに注意されたい。


SmartShape4.jpg

2012以前に作られたファイルを2014で開いたところ


 ただ、今回の仕様変更は新たな問題点も生み出している。
 描画の際、変形図形の始点終点は各ポイントに強制的に吸着するので、確かにトリルのような記号の場合は位置決めが容易になったが、次の譜例のように吸着ポイントから外れた位置に端点を起きたい場合は、一旦ポイントに吸着した図形を改めてドラッグして調整し直さなければならず、かえって操作が煩わしくなってしまった。


SmartShape5.jpg

このようにオクターブ記号を付けようと思っても......


SmartShape6.jpg

始点終点は各ポイントに強制的に吸着してしまう


 さらには、次のようなケースでは、描画プロセスが絶望的に面倒になっただけでなく、端点が各ポイントからの絶対距離となる仕様がかえって仇となり、小節幅の変更に対応できないという問題も発生している。このケースでは小節に所属させる従来の仕様のほうが都合がよかった。


SmartShape7.jpg

1拍目と2拍目では端点の所属を変えてある(○印)


SmartShape8.jpg

上記の小節の幅を広げた状態


 じつは、このケースの問題点を解決する方法もあるにはある。仕様が変われば、それに伴う新たな方法論も確立されていくといったところだが、紙幅の都合もあり、そのあたりについては改めて記事にしてみようと思う。
 何はともあれ、おそらく今回のこの仕様変更に対してはユーザーから改善を求める声が上がりそうだ。たとえば、optionキー(Windowsならさしずめaltキーか)を押しながら描画すれば、従来のように任意の位置に描けるという方法でも良いと思う。

 改善された点もある。
 これまでは、松葉などの小節に所属していた変形図形は、スコア譜とパート譜とでリンクを切ることによって垂直方向については独立した調整ができたが、なぜか水平方向についてはリンクを切ったにもかかわらず調整が連動していた。これはバグではなく、マニュアルにもこの仕様については明記されていた。おそらく技術的に解決できない部分があり、仕様ということで逃げていたと思われるが......。


SmartShape9.jpg

2012以前ではスコア譜表示で松葉を揃えても......


SmartShape10.jpg

パート譜表示では松葉が強弱記号に衝突していた


SmartShape11.jpg

そこで、パート譜上で松葉を調整してスコア譜に戻ってみると......


SmartShape12.jpg

スコア譜表示の松葉が揃わなくなっていた


 この仕様のせいで、スコア譜とパート譜とで表記が両立せず、結局、仕上げ用のスコア譜を別途作るハメになっていたのだが、2014からはこの問題は解消された。


SmartShape13.jpg

2014での編集結果


 もっとも、2014では、上パートについて新仕様に基づいた配置を行っていれば、パート譜表示にした際にも衝突は生じない。このあたりのノウハウについても、別の機会に紹介してみようと思う。


パーカッション・レイアウト編集の改善
 パーカッション・レイアウト設計の機能が強化された。パーカッションMIDIマップ編集画面との連携が容易になったほか、楽器の選択方法に改善が施されている。
 これまでは、パーカッションとして使う楽器を定義する際、Note Type(楽器タイプ)のメニューにはFinaleで定義されているすべての楽器タイプが表示され、たとえばシンバルを選択する場合もあまりに選択肢が多く、どの楽器を選択すればいいのか迷った人も多いのではないだろうか。


PercussionLayout1.jpg

これまでの「楽器タイプ」選択メニュー(クリックで原寸表示)


 そこで、2014からは楽器を絞り込んで表示することができるようになった。


PercussionLayout2.jpg


 ここをチェックした状態で楽器タイプを選択すると、使用中のパーカッションMIDIマップで定義されている楽器しか表示されなくなる。

PercussionLayout3.jpg

(クリックで原寸表示)


リンク・パートの強化
 道具箱ツールでの編集がスコア譜とパート譜で個別に可能になった。これは、スコア譜では1段にまとめて表記している2つのパートをそれぞれ独立したパート譜として作成した場合、音符や付点位置の矛盾を調整する際に有効である。
 また、2012までは、リンクされたパート譜の編集時にはプラグインはごく一部のものを除いて基本的に使えなかったのだが、この制約がなくなった。 これで、パート譜単独で「コーダ切れ」を作ることができるようになった。さらには、道具箱ツールでの編集が独立して行えるようになったことから、道具箱ツールの機能を応用して表現している「小節をまたぐ連桁」も、スコア譜とパート譜で改行位置が異なるケースにも対応できるようになった。
 ただし、もとよりスコア譜とパート譜で独立した編集を行えないエレメントについては、パート譜上でプラグインを適用しても、その効果はスコア譜にも及ぶ(「警告の臨時記号」、「休符の移動」等)。


過去のバージョンで保存することが可能に
 これまでのFinaleでは、一旦上位バージョンで保存したファイルは二度と下位バージョンで開くことはできなかった。多くのユーザーがこの仕様について不満を持ち続けていたわけだが、それについてこれまで開発元は「新機能による楽譜表現が旧バージョンでは不可能だから」と説明し続けてきた。しかし、やっとその重い腰を上げたようで、ついに2014よりこの制約がなくなった。
 2014からは、これまでの拡張子が".mus"だった楽譜ファイルに変わり、".musx"という拡張子の新しい楽譜ファイルフォーマットを採用している。そして、".musx"ファイルはつねに旧ファイルフォーマットである".mus"で保存し直すことができる。ただし、".mus"ファイルは2012フォーマットで保存されるので、2011以前のFinaleでは開くことはできない。したがって、2014以降のファイルを2011以前で開けるようにするには、従来通りMusicXMLを介するしかない。
 この拡張子の付け方は、 Microsoft Excelの旧ファイル形式である".xls"に対するExcel 2007以降のファイル形式".xlsx"に倣っているようにみえる。ただ、さらに先のバージョンで作成された".musx"ファイルが、2014以降の任意のバージョンに遡って開けるようになるかどうかについては、現時点では分からない。
 さて、2014での新機能の部分を2012フォーマットに変換するとどうなるのかは誰しも抱く興味ではないだろうか。2014の新機能である無調設定を施した上記のファイルを2012フォーマットで保存し、それを2012で開いてみた。すると、無調部分は普通のハ長調に戻ってしまうようだ。実際の演奏には支障はないかも知れないが、音楽の構造としてはまるで違ったものになるので、この手の曲のファイル交換を行う際には注意が必要である。


Keyless4.jpg

上記のファイルを2012フォーマットで保存したものを2012で開いたもの


その他
 今回、新たなプラグインの追加はないが、逆に、あまりに特殊な用途のため需要がなかったせいか、「作曲・編曲関連」にあった「作曲支援ツール」プラグイン群はバンドルから外された。ここにあった「共通音にタイをかける」は便利なプラグインだったので(過去記事参照)、これがバンドルされなくなったのは少々残念であるが、以前のバージョンをお持ちの方であれば、過去バージョンのプラグインファイルを2014のプラグインフォルダにコピーすることで、これまで通り使用できるようになる。


OldPlugin.jpg

旧バージョンのプラグインもプラグインフォルダにコピーすればそのまま使用可能


 Garritanサウンドにアルトフルートやフリューゲルホルン等の新たな音色が加わっている。2014で追加された音色についてはこちらを参照のこと。

 リアルタイム入力の一方式である「シーケンス採譜モード」機能が廃止された。この「シーケンス採譜モード」、外部シーケンサーの演奏を取り込んで採譜する機能だったらしい。「らしい」などと人ごとのように書いているのも、私自身この機能を使ったことがなく、今ひとつ機能を理解できていないからだ。過去のマニュアルを遡って調べてみたところ、少なくともFinale 2000以降、一度も機能の変更が行われた形跡がないことから、もはや誰も使っていないと判断されたのだろう。


 今回のバージョンアップは、外観こそリニューアル感はあるが、機能部分では2012のマイナーアップデートであった2012cの改変規模とさして変わらない印象があり、タイミング的にも2012cが実質2013だったのではないかとも思えるほどである。もちろん、過去のバージョンに戻せるようにするなど、ファイルデータ構造の刷新にはそれなりの苦労があったのかもしれない。しかし、ことレイアウトや衝突回避機能などは、現在のところライバルソフトに大きく水をあけられており、Finaleユーザーはそのあたりの強化に期待をしていたはずだが、メジャーバージョンアップを2年待たされた割には、少々肩すかしを食らった感は否めない。
 もっとも、その間にこれまでずっと抱え込んでいた多くのバグの解消に注力していたのかも知れない。そのあたりがどの程度改善しているのか、あるいはしていないのか、改めて検証してみようと思う。

 なお、日本語版を取り扱っているエムアイセブンジャパンは、Finale 2014日本語版についてはこの冬に発売予定としている。

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このブログ記事について

このページは、Hossyが2013年11月22日 16:00に書いたブログ記事です。

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