2016年10月アーカイブ

最新のFinaleの名称はただの"Finale"
 2016年8月16日、MakeMusicはFinaleの新バージョンをリリースした。FinaleはFinale 97から毎年リリース年(実際はその翌年)の年号が付くバージョンがリリースされ続けてきたが、2012を最後にこれが途絶えた。この結果、2013というバージョンは欠番となり、2012の次は2014になった。今年リリースするとなれば2017ということになるのだろうが,MakeMusicはバージョン名に年号を付けるというこれまでの慣例も切り捨てた。最新版の名称はズバリ"Finale"。それ以上でもそれ以下でもない。アプリケーション名も"Finale"としか書かれていない。これまでは各バージョンを並行して使い分けることができたが、今後はバージョンの区別のない"Finale"という唯一のアプリケーションとしてアップデートして行く方針なのだろう。
 ただ、それだと他のバージョンとの区別が付かないので、本家でも便宜上Version 25と呼んで区別している。本記事では新バージョンについてはv25と記すことにする。

FinaleApp.jpg

Finaleのアイコンとアプリ名。バージョンの記述はない。


 今回のバージョンアップで特筆すべきはファイルの互換性である。Finaleは2012までは、新しいバージョンで保存したファイルは古いバージョンで開くことができない完全な前方互換だった。2014からは、従来の"mus"ファイルに代わって新しいファイル形式"musx"が採用され、今後はこのフォーマットが標準となるとアナウンスされたが、実際に新バージョンが出た際の、古いバージョンの"musx"ファイルとの互換性が気になるところだった。早速確認してみたところ、v25で保存したファイルは、コンバートが行われることなくそのまま2014でも開くことができる。また、2014と同様、2012フォーマットへ保存する機能も残されている。つまり、今回から後方互換が完全に保証されたことになる。こうなると、新機能で表現された部分は古いバージョンでどう扱われるのかという点が気になるところだが、これについては後述する。
 今回のバージョンでは、プログラムを64ビット用に全面的に書き直したようで、起動やプレイバックに関するパフォーマンスがかなり改善されている。


切り捨てられた古いMac OS
 v25へのバージョンアップを検討しているMacユーザーはまず注意しなければならない点がある。 v25はOS X Yosemite(10.10)以上でなければ動作せず、Mavericks(10.9)以前のOSにはインストールすることはできない。この切り捨てについてMakeMusicは「この秋にリリースされるSierra以降のOSに安定的に対応させるため」と説明しているが、Yosemiteはたった2年前にリリースされたばかりのOSである。1年毎という頻度でOSを更新し続けるAppleの姿勢にも大いに問題があるとはいえ、この切り捨てはあまりにユーザー軽視ではないだろうか。これで、v25へのバージョンアップを逡巡するMacユーザーも出てくるかもしれない。
 一方、Windows版は、Windows 7以上での動作が保証されている。この処遇の差も、Macユーザーがマイノリティーである所以だろうか。

 ......とまあ泣き言を言っても始まらないので、以下に新機能についてレビューしてみることにする。


点線スラー
 これまでのFinaleでの点線スラーは、太さが均一の針金状のスラーだった。もっとも、ツール名はあくまで「点線カーブツール」であって、あれはもとより点線スラーではなかったという弁明も成り立つわけだが、何はともあれ、v25ではスラーの厚みの変化を持った、真の意味での点線スラーが実現された。

SmartShapePalette.jpg

点線スラー(青色部分)が追加された変形図形ツールパレット
旧来の「点線カーブツール」は一番下に追いやられている


 なお、新方式の点線スラーを2012フォーマットに保存して2012で開くと、従来の点線カーブで表現される。これはある程度予想が付くし、納得もいくわけだが、興味深いのは、2014で開くと、向きが反転した通常のスラーになっていることだ。一瞬バグかと思ったが、今後"musx"ファイルはどのバージョンでも開くことができるという設計方針から、点線スラーに対応していない下位バージョンでは、本来の状態ではないことをあえて明示しているものと考えられる。

DashedSlur25.jpg

v25のスラー。左から通常のスラー。点線スラー、点線カーブ


DashedSlur2014.jpg上記のファイルをFinale 2014で開いたもの。点線スラーだったものが反転している。


DashedSlur2012.jpgFinale 2012フォーマットで保存し、Finale 2012で開いたもの


 ところで、せっかく点線スラーが実現したのだから、旧来の点線カーブを自動的に点線スラーにコンバートしてくれる機能があってもよさそうだが、残念ながらそのようなものは見当たらなかった。旧ファイルの点線カーブを点線スラーに置き換えたければ、現状では一旦点線カーブを削除して、改めて点線スラーを描くしかなさそうだ。せめて、発想記号やアーティキュレーションのように、項目のハンドルをマクロキーでダブルクリックすれば変更できるようにならないだろうか......。
 さらには、点線スラーが表現できるのなら点線タイも技術的には可能なはずだが、今のところ実現できていない。まあ、見た目的には点線スラーで代用しておけということなのだろう。


移調楽器の入力時のモニター音に移調設定が反映
 これまでのFinaleでは、移調設定が行われているパートに入力する際、移調された音ではなく、記譜音がモニターされていた。例えば、記譜音と実音の音程がかなり隔たっているバリトンサックスやグロッケンを移調譜で入力していると、音源が割り当てられていない音域外では発音しないというケースもあった。これについては、かなり以前から改善の要望が幾度となく出ていたのだが、今回やっと実現した形になった。


スコア用の大きな拍子記号の運用の改善
 拍子が頻繁に変わる曲のスコアなどでは、複数の五線をまとめる大きな拍子記号が用いられることがある(下記の譜例参照)。これまでのFinaleでも、スコア譜用とパート譜用に異なるフォーマットの拍子記号を使い分けることはできたが、表示についてはスコア譜とパート譜とで個別に設定できなかったため、スコア上で拍子記号を非表示にしたパートでは、そのパート譜は拍子記号を強制的に表示させる楽譜スタイルを作成して適用させるという面倒な作業が必要だった。v25では、「五線の属性」にてスコア譜とパート譜の拍子記号の表示を独立して設定できるようになったので、この面倒な作業が不要になった。

StaffAttributes.jpg


 ところで、この特定のパートのみに拍子記号を表示させる方法では、そのパートが「空の五線を隠す」の対象になった場合、拍子記号が忽然と消えてしまうという問題が発生する。

LostTimeSignature.jpg

拍子記号はFl.2パートにのみ表示させているので、
Fl.2パートを非表示にすると、当然のことながら拍子記号も消えてしまう。


 じつは、本家のブログのこの機能のティーザー記事を読んだとき、ここまで派手に新機能と銘打っているからには、私はもっと画期的な機能、例えば、組段のグループ名がそのグループの五線の数がどう変わろうとつねにグループの中心に表示されるように、拍子記号も同様の運用ができるようになるのかなどと勝手に期待を膨らませていたのだが、ちょっと肩すかしを食らった感じである。


ほとんど待たされなくなったプレイバック
 これまでは、Human Playbackを使って再生する場合、どんなに短い曲であっても必ず最初にプログレスバーが現れていたが、v25からはこれが現れなくなり、曲の規模にもよるが、再生ボタンをクリックすると、ほとんど待たされることなくプレイバックが開始されるようになっている。
 なお、プレイバックコントローラーを非表示の状態でプレイバックさせた場合は、従来通り、Human Playbackを使用しないプレイバックになる。


ReWireのサポート
 ReWireはDAWソフト同士を連携させる規格だが、シーケンサーソフトからFinaleをスレーブとして同期させることができるようになった(Finale側からコントロールすることはできない)。シーケンサーソフトからオーディオソースとしてFinaleを選択した状態でFinaleを起動すると、Finaleのプレイバックコントローラーからは再生ボタンなどが消え、待機状態となる。シーケンサーソフトをスタートさせると、Finaleも自動的にスタートする。この機能によって、Finaleのプレイバックを直接シーケンサーソフトにレコーディングすることが可能になる。

PlaybackControl.jpg

スレーブとして待機中のFinaleのプレイバックコントローラー


その他の追加機能
 Garritan楽器に新たにいくつかの音色が加えられた。詳細はこちらを参照されたい(太字が新たに加えられた音色)。

 最近のFinaleでは、たとえソロピアノの楽譜を作成したとしても、スコアとパート譜が自動的に作成される。そして印刷時には「印刷する楽譜の選択」というダイアログが必ず表れ、煩わしいことこの上ない。私などは、パート譜不要の楽譜を作っている際は、このダイアログが出ないように、まずすべてのパート譜を削除する作業から始めていたくらいだ。

Print.jpg

Mac版の印刷ダイアログ画面
以前の独立していた「印刷する楽譜の選択」が組み込まれている


 じつは、Windows版では従来よりこの楽譜の選択画面は印刷ダイアログそのものに組み込まれていて、選択が希望通りになっていれば特に何もする必要はない。私と同様の不満を抱えていたMacユーザーからの苦情が殺到したのだろう、さすがにMac版もWindows版と同様のインターフェイスに改善され、あの煩わしいダイアログから解放された。ただ、これまでMac版だけがなぜあのような不便な仕様になっていたのかは不明である。


 ところで、今回のv25とFinale 2014の間には、2014.5というメンテナンスバージョンが存在するのだが、諸般の事情から日本語版のリリースは見送られている。というわけで、2014.5で追加された新機能も紹介しておこう。

 転調時に自動的に複縦線になるようになった。もちろん、ファイル別オプションにてこの機能をオフにすることもできる。

 Finale 2012のスコア・マネージャーの登場で一旦廃止された五線メニューの「五線の並べ替え」機能が復活している。五線の並べ替えそのものはスコア・マネージャーでも可能だが、五線メニューの「五線の並べ替え」では、グループ単位での並び替えが可能であるのが最大の特長だ。ただし、従来通り、グループをまたいでの並び替えはできない(スコア・マネージャーでは可能)。


廃止された機能
・ライブコピーツール(英語版ではMirror Tool)
 ライブコピー(参照元を反映させて表示するコピー機能。参照元を編集すると自動的にコピー先も更新される)が使われている旧ファイルを開く際には、通常の小節にコンバートするかどうかを問うアラートが表示される。ここで「コンバートしない」を選択すると、ライブコピーはもはや編集不可能なアイテムとして残り続ける。なお、従来よりユーティリティメニューにあった「ライブコピーを通常の小節に戻す」機能もその救済策としてまだ残されている。ある機能を廃止しておきながら、その機能に基づくデータ構造そのものは残しておくという方針は、旧バージョンに立ち戻って編集するシチュエーションを考慮したものだと考えられるが、こうしてレガシーなものをいつまでも残していくと、プログラムは一層複雑怪奇なものなり、バグの誘発につながりはしないかと老婆心ながら危惧してしまう。

・テンポツール 
 「テンポツール」で作成された旧ファイルのテンポ情報は、そのままMIDI情報にコンバートされて保持される。

・スキャン入力
 この機能が廃止された理由については本家のブログに詳しく書かれているが、要は楽譜をスキャンする行為はすなわち楽譜をコピーすることに他ならず、著作権法に抵触するのではないかという議論があった上での判断らしい。今後もスキャン機能が必要というユーザーは、最後の搭載となったFinale 2014を捨てずにおこう。

・Band-in-a-Box 自動ハーモニー(プラグイン)
 64ビット仕様に対応できなかったことが理由とされているが、これは将来の復活に含みを持たせている。

・アイテム統計(プラグイン)

・8分音符の自動連結(プラグイン)
 ユーティリティメニューの「連桁の再連結」機能でほぼ同等の処理ができるため。

 ところで、2014までは、バンドルされなくなったプラグインであっても、旧バージョンのプラグインをプラグインフォルダにコピーすれば問題なく使えていたが、今回はプラグインも64ビット仕様に作り直されたため、旧バージョンのプラグインは使えなくなっている。

 日本語版としてリリースされなかった2014.5で廃止された機能も紹介しておこう。もはや誰も使わないだろうということで切り捨てられたと思われるものばかりである。
・コマンド入力(プラグイン)
・並進行の検索(プラグイン)
・第3線の符尾の向き(プラグイン)
・小節番号配置情報の消去(プラグイン)
・譜めくりアシスタント(プラグイン)

・マイク採譜(MicNotator)
 マイクによる入力が廃止されたのにもかかわらず、リアルタイム入力ツールのアイコンにマイクの絵がまだ残っているのはご愛敬か。


既に問題点も?
 Windows版がどうかは不明だが、少なくともMac版では2014で作成されたものも含む旧ファイルを読み込んだ際、一部のフォントが文字化けして表示される問題がある。どうやら文字化けするのは欧文、日本語フォントにかかわらず、古いType1フォントのケースが多いようだが、これについてはもう少し精査してみたい。じつは、この問題は日本語版がスキップされた2014.5から発生しだしたのだが、2014.5からはフォントの扱いが変わったらしく、その影響が出ている可能性が高い。

Text2014.jpg

Finale 2014で開いた状態


Textv25.jpg上のファイルをv25で開いた状態


 また、Finale 2014からは、パート譜表示でもプラグインが使えるようになったのだが、v25では再びほとんどのプラグインがグレーアウトして利用できなくなっている。おそらく、パート譜独自にプラグインを使用することによって、スコア表示と矛盾が生じてしまう状況が発生したため、再び封印したのではないだろうか。


まとめ
 今回のバージョンアップについて、パフォーマンスの改善という部分は評価できるものの、新機能については「この機能でどれだけの人が恩恵を受けるの?」といった感じの些末な改変にとどまった印象だ。ライバルソフトに大幅に後れを取っているとされるレイアウト機能については、今回も何の改善も見られなかった。とりわけOSのバージョンによって不具合なく使用できるバージョンが限られているMacユーザーにとっては、ますます使用条件が狭められる事態になっている。

 現在、この冬にリリース予定の全く新しい楽譜作成ソフトが注目を浴びている。そんな状況の中で、Finaleが今後どうユーザーを引き留めていくだけの魅力を持ち続けられるのか、正念場を迎えていると言ってもいいだろう。

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