2009年11月アーカイブ

 小節線をまたいでつながっている連桁は、楽典的には例外的な表記ということになるのだろうが、ベートーヴェンやブラームスといった古典楽曲にもしばしば見られる表記であり、近現代の楽曲においてはいたって普通に見られる表記である。楽譜ソフトにおいて、小節内の連桁をつなぐことと小節線を挟んだ連桁をつなぐことにさしたる差はなさそうに思えるが、ことFinaleの連桁にとって、小節線の存在は往時のベルリンの壁のごとく厄介な障壁のようだ。どうもFinaleは当初の設計段階より、連桁を小節線をまたいでつなぐことを全く想定していなかったフシがあるからだ。


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 現在Finaleでは、小節線をまたぐ連桁はプラグインを使うことで実現できる。いや、「実現したように見える」と言った方が正確かも知れない。このプラグインを使ってつなげた連桁、一見つながっているように見えるが、実際は小節最後の音と次の小節最初の音符がつながれているわけではない。これは、小節線をまたいだ部分を改行してみるとすぐにそのからくりが暴かれる。


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冒頭の譜例の2小節目を次の段に送ってみたところ


 逆に、改行にかかる部分をつないだ場合、その部分が一段に収まるように小節のレイアウトを変更すると、やはり妙なことになってしまう。


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プラグインを使って改行部分の連桁をつないだところ


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上記の状態から2段目の小節を1段目に繰り上げたところ


 この「小節線をまたぐ連桁」プラグインは、同一組段上の連続している小節と、改行にかかった部分では全く異なる処理をしていることが分かる。したがって、このプラグインは、すべての組段の小節割りが定まった上で使用するのが適切な使い方ということになる(もちろん、後から連桁をつなぎ直すことは可能)。

 さて、これを踏まえて今回のお題目である。
 小節線をまたぐ連桁がページをまたいでしまう場合はどうすればいいだろうか? このプラグインを使用するには、あらかじめ少なくともつなぎたい部分の両側の小節を選択しておく必要がある。しかし、1ページ単位でしか編集ができなかったFinale 2008まででは、そもそもページを挟んだ2小節を選択する術がない。2009から複数ページを同時に編集できるようになったので、この問題は解決と思いきや、実際にプラグインを実行すると、以下の謎めいたエラーが出て、結局つなぐことはできないままだ。


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ページを挟んで「小節線をまたぐ連桁」プラグインを実行するとエラーとなる


 聡明なユーザーなら、「スクロール表示にした状態でつなげばいいじゃないか」と考えるだろう。しかし、このプラグインはスクロール表示の状態でもつねに改行/改ページ位置を考慮した処理を行うので、残念ながら結果は同じである。


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スクロール表示の状態で「小節線をまたぐ連桁」プラグインを実行する


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改行部分とそうでない部分で処理が異なっている


 このプラグインが実装されたFinale 2004当時は、まだ1ページ単位でしか編集できなかったわけだから、このプラグインの設計者がFinaleが複数ページにまたがって編集されることを全く想定していなかったことも頷ける。これについてはおそらく設計者自身も既に気付いていると思われるので、近いうちに改善されると思われるが、いずれにせよ、現時点ではページをまたぐ連桁の処理については2008以前と状況は変わらないということだ。

 ページをまたいだ連桁をつなぐには、改行部分を1ページ内に収める必要があるが、これには2通りの方法が考えられる。


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このページを挟んだ部分の連桁をつなぎたい


a. ページあたりの組段配置を一時的に変更する方法

  1. 2ページ目の最上段を1ページ目の最下段に追い込む。または、1ページ目の最下段を2ページ目の最上段に追い出す。これには、レイアウト・メニューの「組段の均等配置」を利用すると便利。

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  3. この状態で改行部分の連桁をつなぎ、組段を元のレイアウトに戻す。

b. 小節割りを一時的に変更する方法

  1. 2ページ目の最初の小節が1ページ目の最下段の1小節目に来るように、または、1ページ目の最終小節が、2ページ目最上段の最終小節に来るように、前後の小節割りを調整する。

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  3. この状態で改行部分の連桁をつなぎ、小節割りを元のレイアウトに戻す。

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 なお、1ページに1つの組段しかないスコアは、「改行=改ページ」なので厄介だ。このプラグインが動作するには、改行を挟んだ組段を1つのページに入れることを考えなければならない。


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  1. まず、2ページ目の1小節目を1ページ目に追い込む。または、1ページ目の最終小節を2ページ目に追い出す。

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  3. 「コーダ切れの作成」プラグインを使って組段を改ページ部分で分断する。

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  5. 「コーダ切れの作成」プラグインを使うと分断部分は必ず複縦線になってしまうので、ここで通常の小節線に戻しておく。複縦線のまま連桁をつなぐと、後で通常の小節線に戻したときに複縦線の幅だけ連桁がはみ出してしまうのを防ぐためである。
     この状態で分断された組段部分の連桁をプラグインでつなぎ、小節割りと組段を元のレイアウトに戻す。

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 この「小節線をまたぐ連桁」プラグイン、Finaleの機能の裏ワザを駆使し、それは涙ぐましい努力でこの連桁処理を実現しているスグレモノなのだが、そのあたりはFinale User's Bibleに詳しいので、ここでは割愛する。問題なのは、このプラグインはあくまでサードパーティが提供しているものであり、Finale本体の正規の機能で連桁の連結を実現しているわけではないことである。このプラグインによる連結は、ちょっと編集を加えれば容易に瓦解してしまう姑息な手段に過ぎないのだ。
 「コーダ切れ」にも言えるが、このような楽譜としては基本的な表記を、Finaleは外部プラグインにずっと頼り続けるつもりなのだろうか?

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