2013年4月アーカイブ

 普段我々が使っているソフトウェアのアップデータが公開される際に付属するバグフィックス項目を読むと、普段使わない機能なので気付かない部分にも多くのバグがあったことを改めて知らされることがある。大規模なソフトになればなるほどそういったバグは多岐に及び、ことFinaleのバグに関してはいろいろ情報を集め把握しているつもりの私でさえも、「こんなバグがあったのか」と驚かされることが多い。
 Finaleの本家のフォーラムにはユーザーからのバグ報告や機能改善の要望が多く寄せられているが、「我々もその問題はすでに把握しているが、先に解決しなければならない問題が他にたくさんあるんだ」と開発スタッフに釈明され、先送りされている問題点も多い。
 今回取り上げるのは、そんなバグの1つである。


 音符が転調部分を挟んでタイでつながっているというシーンはよくあることだ。また、転調は音楽の段落である場合が多いので、転調部分で改行というのは楽譜のレイアウトの上では極めて自然の成り行きである。ところが、Finaleには「移調楽器」、「転調部分を挟んだタイ」、「転調が改行部分で行われている」の3つの条件が重なった時、段頭のタイが消えてしまうというバグがある。不思議なのは、つねに消えるわけではなく、消えるケースと消えないケースがあったりするのだから少々厄介だ。


TieOverKeyChange1.jpg


 さらに不思議なのは、和音の構成やポジションによっても、タイがかかったりかからなかったりするのだ。


TieOverKeyChange2.jpg


 転調部分が段の途中であれば、タイは見た目ではつながっているのだが、「フレーム編集」でチェックしてみれば、データ上はつながっていないことが確認できる。実際にプレイバックしてみれば、そこで音が打ち直されることが分かる。


EditFrameDlg.jpg

上記譜例の2小節目のフレーム属性を表示したところ
「タイ終了」のチェックが外れていることが分かる
ここにチェックを入れても無視され、タイは付かない(クリックで原寸表示)


 どの条件の時にタイが消えるのか法則でも見いだしてやろうかとも思ったが、仮に分かったところでこちらでそのバグを直せるわけでもなし、その規則性を得意満面になって開発元に報告したところで、「そんなことは分かっている」と言われるのがオチなので、これ以上の詮索はあきらめた(「酸っぱい葡萄」の法則)。この法則性についてお気付きの方、あるいは何か情報をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひごお知らせいただきたいところである。

 じつはこの消滅したタイ、一旦書類メニューから「移調楽器を実音で表示」モードにし、その小節に対して高速ステップ入力編集枠を表示させて抜ける操作を行えば復活し、その状態で「移調楽器を実音で表示」モードを解除すれば表示が保持される。しかし、ひとたび移調表記の状態で高速ステップ入力編集枠を表示させた瞬間に再びタイは消えてしまう。
 上記の対処法では、うっかり編集枠を表示させてしまい、知らぬ間にタイが消えてしまうという事故を起こしかねない。これは楽譜の管理という観点からは決して好ましい状態ではないので、もっと堅実な処置を行っておきたいものである。当座のところ、消えてしまったタイについては、スラーを加工して貼り付けて対応するくらいしかなさそうだ。コツとしては、変形図形メニューから「小節に割り付け」を選択し、Shiftキーを押しながらドラッグすることで簡単に水平なスラーを描くことができる。


TieOverKeyChange3.jpg

スラーで代用した段頭のタイ


 注意しなければならないのはリンクしたパート譜との整合性である。スコア、パート譜とも転調部分が改行部分であれば問題ないが、どちらかが段の途中になった場合、貼り付けたスラーはもはやゴミでしかない。この場合はスラーのリンクを一旦外し、不必要なほうのスラーをコンテクストメニューから「表示」のチェックを外して隠しておけばよい。

 このバグ、じつに90年代のバージョンからずっと引き継がれてきているもので、移調楽器を扱うユーザーの間ではそれなりに認知されている。このバグについては相当以前より改善の要求があったはずだが、10年以上解決されないということは、案外根が深い問題なのかもしれない。

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