2008年10月アーカイブ

 前回のレビューは、2009の記譜機能の大きな変更点である発想記号が中心だったが、今回はその他の機能について行ってみよう。なお、今回もMac版を使ってのレビューなので、システムに依存する部分、とりわけ入出力に関する部分については、機能も含めてWindows版とは異なっている可能性もあることをあらかじめお断りしておきたい。

複数ページにわたる編集が可能
 これまでのFinaleも、複数ページを表示させることはできたのだが、最初のページ以降のページは「見えている」だけであって、決してさわることはできなかった。しかも、複数ページを表示させていると一部の編集操作が挙動不審になるというおまけ付きであった。2009になって、やっと複数ページにわたって自由に編集ができるようになった。


PageView1.jpg

ページをまたいで範囲選択したところ(クリックで原寸表示)


 表示方法は、これまでの単ページ単位での表示に加えて、"Book Style"という、本として綴じた状態で表示させることも可能になった。このスタイルにしておくと、編集時に譜めくりの位置などを意識しやすくなる。


PageView2.jpg

Book Style表示にしたところ。ハンドルがすべてのページに付いている(クリックで原寸表示)


選択ダイアログのサイズ調整機能
 2009からは選択項目に関するすべてのダイアログにズーム機能(虫眼鏡のアイコン)とサイズ調整機能(右下隅)が付加された。この機能によって、特に選択項目の多いダイアログでは、従来のスクロールバーを動かして目的の項目を探す煩わしさからは解放されそうだ。


Selection1.jpg

アーティキュレーション選択画面(デフォルト)


Selection2.jpg

表示枠を拡大し、かつズーム機能で縮小表示してみたところ


機能強化されたFinaleScript 2.0
 FinaleScriptは、Finaleの一連の操作を自動化して作業の効率化を図ることを目的として開発された一種のミニプログラムである。FinaleScriptが初めて搭載された折り、これで楽譜編集時にいつも行うお決まりの単純作業を効率化できるに違いないと心をときめかして研究したものだが、結局のところ、あまりの扱える項目の少なさに落胆してしまった。特に、ラジオボタンやチェックボタンのある対話型ダイアログボックスをまったく扱えないというのは、私にとっては致命的だった。
 今回、2.0としてバージョンアップしたFinaleScriptは、上記の対話型ダイアログボックスを扱えるようになったのが大きな改良点だ。例えば、次のサンプルスクリプトは左右ページのそれぞれの上角にページ番号を振るというものだ。特定のメニュー項目の呼び出しから、ダイアログ中のポップアップメニューからの選択、チェックボックスのチェックのオン/オフ、数値の直接入力などを行っている。


FinaleScript.jpg

FinaleScript 2.0ではスクリプトが構文別にカラーリングされている


 さらに、スクリプトには個別にショートカットキーを割り当てることができるようになったので、従来のようにスクリプトパレットを常時表示させていなくても、ワンキーアクションでスクリプトを実行できるようになった。
 今回の機能強化により、FinaleScriptの実用性は格段に飛躍したと思われる。ただ、いろいろ試しているのだが、まったく呼び出せないダイアログもいくつかあるようで、もう少し検証を進めてみる必要がありそうだ。また、近くリリースされるであろう日本語版でもちゃんと動作するのかもちょっと気がかりなところである。

 欲を言えばきりがないが、現時点ではまだスクリプトを上から順に実行しているだけで、ループや条件分岐はできない。サンプルスクリプトを眺めていると、あるまったく同じ作業を五線の数だけ列挙し、「さらに五線がある場合は以下同文で追加せよ」と注意書きがあるものも少なからず存在する。こういった作業にループ制御ができれば、もっとスクリプトはスッキリしたものになるはずだ。そういう制御を盛り込むとますます複雑になるのでけしからんという向きもあるだろうが、そもそも、こういったスクリプトを自分で組んでみようと考える人は、多少なりともプログラムの経験がある人だと考えられるので、その危惧は当たらないと私は思う。おそらく、そのあたりの機能はFinaleScript 3.0ぐらいには実装されるのではないかと私は踏んでいるのだが、どうだろうか。


自由度の増したソフト音源の扱い
 Finale 2009には、これまでのGarritan KontaktPlayerに代わってGarritan Aria Playerというプレーヤーソフトが付属している。音色では、従来のGarritanの音色にさらにジャズ系、吹奏楽系のいくつかの音色が追加されている。さらに、日本で需要があるのかどうかは不明だが、Tapspace社製マーチングパーカッション専用の音色、Virtual Drumlineもバンドルされている。


AriaPlayer.jpg


 これまでは、Finale付属の音源以外のソフト音源を使ってプレイバックさせるためにはちょっとした特別な設定が必要だったが、2009からはそれらの外部ソフト音源をFinaleから直接制御できるようになった。MIDIデバイス経由ではなく、直接AU(Windows版はVST)を制御することにより、これまでできなかったGarritan音源と外部ソフト音源との共演も可能になった。


AUInst.jpg


 前回のレビューでも書いたが、これまでもFinaleは起動の度にこれらの外部ソフト音源のチェックを行い、多くの音源をインストールしているほど起動に時間がかかっていたのだが、2009からはそのチェックは一瞬で終わるようになった(最初の起動時に一度だけチェックを行って、次回の起動時からは省略しているのかも知れない)。

 これまでは、Finaleに付属のGarritan音源はあくまでFinale専用の特別仕様であり、他のソフトからは使用できなかったのだが、今回付属されたGarritan音源はその制限も撤廃され、他のソフトから使用することも可能になった。マーチング・パーカッション専用の音色などが自由に使えるようになったことは、その手の曲の打ち込みをする人にとっては朗報かも知れない。


DP5.jpg

Digital Performer 5からFinale付属音源をアサインしたところ


Human Playbackの改良
 見た目は、Human Playback初期設定ダイアログのうち「楽器固有の奏法」画面のインターフェイスが若干変わった程度で、他に大きな変化はないが、2009からの外部ソフト音源への対応に伴い、楽器固有の奏法についてそれらとの連系も強化されたようだ。


HumanPlayback.jpg


 その他には、Finaleと同じ開発元の伴奏支援ソフトSmartMusic Accompanimentの書き出し機能の強化というのがあるが、そもそも日本ではSmartMusicそのものがほとんど普及しておらず(もちろん私も持っていない)、この機能については検証のしようがない。
 なんでも風の便りでは、開発元のMakeMusic社は、SmartMusicの日本市場への売り込みを目論んでいるらしい。ただ、かつてSmartMusicの前身であるVivaceというソフトを野中貿易が扱っていたことがあったが、結局日本では鳴かず飛ばずだった。SmartMusicのような伴奏支援ソフトといえば、ジャズの世界では、日本でも既にBand-in-a-Boxが広く知られており、一方、アカデミックな教育現場では、単にコンピュータの扱いに慣れていないという理由もあるだろうが、コンピュータによる伴奏といったものに対して依然抵抗感が強い。現状では、日本市場へのSmartMusic参入はなかなか厳しいのではないだろうか。


 さて、駆け足でFinale 2009のレビューを行ってみたが、今回の2009が「買い」かどうかは判断の分かれそうな部分だ。楽譜編集の部分では、使い勝手の改善は随所で見られるものの、この2009でしか実現できない楽譜表記というものは見あたらない。プラグインもFinaleScriptがバージョンアップしただけで、新たに追加されたものは皆無だ。プレイバックに関する機能拡張も、外部ソフト音源を持たない人や、そもそも楽譜作成のみに専念する人にとっては福音とはならない。これまでのバージョンでずっと抱えていたバグが直っているかどうかも気になるところだが、少なくとも、ここでも取り上げたコーダ切れ後打音のバグを含め、その他の多くのバグも依然解決されないままだ(そのうちリリースされるであろうアップデート版で直っていることを期待したいが......)。
 と書いてしまうと、なんだか2009のネガティブキャンペーンをしているように思われるので一応フォローをしておくが、これまで述べてきたことはあくまで私の個人的な主観であり、いきおい自分にとって興味のある部分とない部分との検証の密度に濃淡が出てしまうのは致し方ないところだ。しかし、私にとって興味を引かれない機能も、他の人にとっては魅力的な機能であるかも知れない。そういう機能が付いたのには、それを熱望した人がいたからに他ならないからだ(あまりフォローになっていなかったな)。
 Finale 2009に興味のある人は英語版のデモ版もダウンロードできるので(おそらく日本語版が出た暁にもそうなると思うが)、試しに使ってみるのもいいかもしれない。ただし、デモ版は付属ソフト音源等に制限があると思われるので、そのあたりはご承知おきいただきたい。

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