パーカッション・マップは全音符がお嫌い!?

※ 09/6/27に記事追加

 最近の高機能のたいていの楽譜作成ソフトには、打楽器の楽譜上の音符と実際に鳴らす音源との関連付けを行う機能が搭載されている。Finaleの場合はパーカッション・マップがそれである。プレイバックに関与しない浄書専門のユーザーにはほとんど利用価値はないが、Finaleで楽譜を打ち込みながら音を確認したい大多数のユーザーにはなくてはならない機能である。
 打楽器の表記は、作編曲家によっても出版社によってもさまざまである。そのような多様なニーズに応えるひとつとして、パーカッション・マップには、特定の楽器に特定の符頭を割り当てるという機能がある。これを利用して入力すれば、自動的にシンバル系は×符頭、トライアングルは△符頭で表記させるといった使い方ができるようになる。


pmap1.jpg


 ところが、この一見便利に見える機能にも落とし穴がある。パーカッション・マップでは、各楽器について黒玉用と白玉用の符頭をそれぞれ定義できるのだが、通常の符頭を使おうと思った場合、白玉用符頭は1種類しか定義できないので、2分音符用の白玉か全音符のどちらか一方しか割り当てることができないのだ(通常、2分音符用の白玉が割り当てられている......上記ダイアログ参照)。この状態で楽譜を書くと、下のような奇妙な楽譜になってしまう。


pmap2.jpg

 これを修正するには、全音符のみを個別に変更するしかないのだが、まず、スコア全体の入力が完了した後、パーカッション・マップを使用しているパートのみを選択し、「ユーティリティ・メニュー(2007以前なら「ブロック編集メニュー」)>変更>符頭...」にて「検索:」「変更:」ともに「選択した符頭」に全音符を指定すれば簡単に一括変換できる。もちろん、選択範囲に別の符頭キャラクタの全音符を使用している場合は、その部分は選択範囲から外す必要があるが。


pmap3.jpg

pmap4.jpg

正しい表記になった

 浄書的には、通常の全音符に2分音符の符頭を使うというようなことは金輪際あり得ない。しかし、手書きの楽譜の場合、「白丸に符尾が付いていなければ全音符」という暗黙の了解があるから、とりあえずこの表記でも演奏現場で混乱が起こることはまずないという実態がいっそう事を曖昧にさせている。一般のユーザーに上記の修正法を周知させたところで、「別に読めるからいいじゃん」と煩わしさを理由に放置されるのが目に見えている。

 実際、作編曲家の書いたスコアがそのまま無批判に出版される傾向のある、ある分野の出版物にこの奇妙な記譜を頻繁に見かけるようになってきた。他の記事でも書いたが、特定のソフトの妙な仕様のせいで、正統的な書法が軽んじられ、妙な書法がスタンダードになってしまうことは残念なことだ。



09/6/27に追記

 同じ憂慮を抱いていたユーザーの声が届いたのか、Finale 2010からは、扱える符頭が全音符、倍全音符まで拡張された。メデタシメデタシ。しかし、旧ファイルの設定をそのまま受け継いで使っている場合は、全音符、倍全音符の部分は旧来通り2分音符の符頭のままで、自動的に全音符、倍全音符符頭にコンバートされるわけではないので注意が必要である。

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コメント(6)

確かに,マーチング用音色のプレイバックなどを作っている暇があったら,こっちをどうにかしてくれという感もありますよね。
全音符を作るとしたら倍全音符も……ということになってしまい,ダイアログが煩雑になってしまうということなのか,あるいはドラムのような楽譜に全音符は滅多には出て来まいということ判断なのか……。

KKさん、早速のコメントありがとうございます。

>全音符を作るとしたら倍全音符も……ということになってしまい,ダイアログが煩雑になってしまうということなのか,

ダイアログは既に十分煩雑です(笑)。
プログラム的には、各楽器について、全音符用と倍全音符用のパラメータを増やせばいいだけの話で、大した作業じゃないと思うんですがね。
リズム表記の符頭定義には、およそポップス楽曲に使われることもなさそうな倍全音符までしっかりあるのに、Finaleってこういう部分が「詰めが甘い」ソフトだと思いますよ。

こんばんは。
以前、楽譜浄書の部屋の掲示板に偉そうに書き込みをしていた当時中学生だったなめ猫です。

早いもので、高3、受験生になりました…。

そんなことは置いておきまして…
この記事、待ってました!!という感じの記事でした。

吹奏楽のスコアを作っている時に、いつも「なして音符の定義が2つだけかね〜」とぼやきながら作ってました。

よろづ掲示板が出来たので、質問しようかな…とも考えてたんですが、もしかして場違いでは?という不安から書けず…。

とても、スッキリ!!しました(^^)

読んでいて、凄く勉強になります。

これからも、ブログの更新を楽しみにしてます。

暑いですので、体調など崩さぬよう、ご自愛なさってください(^^)

なめ猫さん、おひさしぶりです。
もう高校生ですか・・時間の経つのは早いですね(こちらは老けるばかり)。

海の向こうでは既に2009がリリースされていて、そちらのレビューなんかもやりたいのは山々なのですが、ここのところいろいろ仕事が舞い込んできて更新のペースが落ち気味です。
そんなブログですが、これからもちょくちょく覗いてください。もちろん、ツッコミも大歓迎です。

こんにちは。
昔、TRUTH でお世話になりました(ドラム叩いてました)。

最近PrintMusic に慣れてきたところです。(ひと通り音符の
入力ができるようになってきて、ちょっとずつ物足りなくなって
くる頃です…)
これは、音符の頭だけでなく、ドラムロールなどのトレモロ
記号をつけるときも同じ状況が出ます。ちょうど2分音符の
符尾と同じ位置につくため、全音符のときには必然的にずれて
しまいます。これも手作業で直します。
パーカッションマップを使いこなすべく、Finaleの体験版で練習中です
(少しずつグレードアップ中…)。

手書き譜は見せられないという方もいらっしゃいますが、
個人的には手書きのフルスコアのままでもOKです。
印刷屋さんの手抜きだけなら困りますが、職人仕事が見られる
のでうれしいのです。最近は、浄譜に変わり、一線譜だとリズム楽器が
見分けにくいのが難点…(私はALL五線にト音・ヘ音記号派。
これは個人の感想です)。

Hirokiさん、亀レス失礼します。

>ドラムロールなどのトレモロ記号をつけるときも同じ状況が出ます。
>ちょうど2分音符の符尾と同じ位置につくため、全音符のときには必然的にずれてしまいます。これも手作業で直します。

これは、今回のお題のパーカッションマップとは直接関係はなく、アーティキュレーション設計において、位置指定で「符尾側」を設定した場合に、符尾のない全音符のケースをまったく考慮に入れていないという設計の符尾、もとい不備ですね。

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このブログ記事について

このページは、Hossyが2008年7月17日 16:00に書いたブログ記事です。

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