Finaleが高度な楽譜編集機能を備えているソフトであることは論を待たないが、そのFinaleにも、こんな基本的な楽譜表記のルールも反映していなのか、というような仕様が結構見受けられる。このあたりの話題は「Finaleのここがダメ!」のカテゴリでまとめていくつもりだが、おそらく、このカテゴリが一番充実してしまうのでは、と今から苦笑している。それはまるで「Finale叩き」の様相を呈してくるかもしれないが、それもFinaleに対する愛情の裏返し、Finaleに対するエールだと受け止めていただきたい。
さて、その第1弾は休符の垂直位置である。
複声部の場合や、単声部でも連桁グループの内側に置かれる休符は本来の定位置(ホームポジション)から上下にずらして置かれる。このずらし方にはルールがある。
例えば8分休符の場合、ケルン(黒玉の部分)の位置は五線内においてはつねに線間になければならない。ところがFinaleでは、休符も音符と同様に2度ずつ上下に移動させることができるので、結果的にそのルールに反した誤った位置にも配置できてしまう。
△印は微妙な位置だが、可能なら避けたいところ。
なぜこれが誤った位置なのか理由がよく分からないという人は、休符に付点を付けてみれば一目瞭然だろう。
すなわち、休符は、五線内においてはホームポジションから3度ずつ1間単位で上下しなければならない。一方、五線の外ではこの制約はない。
なお、ケルンの数は8分休符以下ではひとつずつ増えていくから、当然のことながら制限される配置(×印)もひとつずつ増えていくことになる。
ところで、楽譜はいつも五線とは限らない。打楽器のように1〜数本線で表記されるものもあれば、ギターのタブ譜のように6線以上で表記されるものもある。それぞれの本数によって、制限される範囲も異なってくる。
休符に限ったことではないが、このような配置ルールを言葉で表すのはじつにたやすい。「見にくくならないように」......それだけのことなのだ。しかし、そういったかつての浄書職人が長年かけて築き上げてきた感覚的なロジックをコンピュータで制御するのは意外と面倒なことなのかもしれない。とはいえ、スペーシングや、Human Playbackといったもっと複雑な制御を実現している現在、この程度の制御がなおざりにされているのはやはり片手落ちと言わざるを得ない。
私たちは、Finaleの休符が誤った位置に置かれる可能性があることを承知した上で、誤った配置にならないような設定を行う等、つねに細心の注意を払っているわけだが、このことを知らずに無造作に使っていると、Finaleはいとも簡単にぞんざいな楽譜を作り上げてしまうソフトだということを知っておいて欲しい。