プレイバックでfpが効かない!?

 日本の出版楽譜のスタイルは欧米のものとは細かな部分で異なっている。Finaleはアメリカ産のソフトであり、英語版のFinaleに付属しているデフォルトファイルは当然のことながら欧米仕様になっている。国内の出版表記に見慣れた人にとっては、欧米仕様のデフォルトファイルから作られた楽譜に違和感を感じることもあるということで、日本語版のデフォルトファイルには、国内の出版楽譜に準拠した独自のファイル設定が施されている。これは真の意味でのローカライズであり、国内ユーザーに対する真摯なサービスと言えるものだが、時としてこれが仇となってしまうことがある。


 先日、併設している「Finale よろず相談室」に「強弱記号の"fp"(フォルテピアノ)が最近プレイバックで機能しなくなっている」という質問があった。私は普段は独自にカスタマイズしたデフォルトファイルを使っており、特に事情がない限り日本語版付属のデフォルトファイルを使うことはない。自分の楽譜の"fp"はちゃんとプレイバックに反映されているので怪訝に思い、改めて日本語版デフォルトファイルで試してみたところ、確かに"fp"が機能しない。これは一体どうしたことか?

 ここでちょっとFinaleのプレイバック機能について簡単なおさらいをしておこう。
 Finaleでは、個々の発想記号にプレイバック効果を設定することができる。現在、一般的な発想記号については、特に何も設定しなくてもHuman Playbackがそれらを自動的に解釈してプレイバックに反映してくれるが、プレイバック効果が設定してあると、Human Playbackはその設定を優先する設計になっている。たとえば、"f"(フォルテ)という発想記号に対して、プレイバック設定でベロシティを"pp"(ピアニッシモ)の値である「36」に設定すると、Human Playbackは楽譜中の"f"を"pp"で演奏するようになる。
 さて、"fp"は一旦強い音を発音した後、即座に音量を下げるという2つのステップを必要とする強弱変化である。しかし、Finaleでは1つの記号に設定可能なプレイバック効果は1つのステップに限られ、"fp"という複合的な音量変化を表現することは不可能であるため、Human Playbackが搭載される以前よりプレイバック効果には何も設定されていなかった。現在は"fp"のプレイバック効果はHuman Playbackが自動的に行ってくれるので、"fp"に本来と異なるプレイバック効果を持たせる意図でもない限り、プレイバック効果の設定をする必要はない。

 ここまで書くと既にお気付きの方も多いかと思うが、日本語版デフォルトファイルの発想記号の"fp"には、プレイバック効果として"f"と同じベロシティ値「88」が設定されていたのである。


Expression1.jpg

日本語版デフォルトファイルの"fp"のプレイバック効果の設定


 いろいろ調べてみたところ、日本語版デフォルトファイルでは"fp"のみならず、"fz"や"sfz"にも同様にベロシティ値「88」が設定されているようだ。そもそも、"fp"や"sfz"は">"(アクセント)等と同様、その音にのみ有効な一時的な音量変化を示す記号であり、Finaleのプレイバックの振る舞いに照らせば、本来アーティキュレーションとして定義されるべき記号である。これを発想記号で定義した場合、ベロシティ値が設定されていると"p"や"f"のような恒常的な音量変化として扱われてしまう。たとえば、"p"のダイナミクスの時に"sfz"記号を付けると、それ以降はすべて"f"で演奏されるし、"ff"の時に"sfz"記号を付けると、それ以降は"f"のダイナミクスに落ちてしまうといった具合だ。相談室での質問の「"fp"のプレイバックが機能しなくなっている」というのは、"fp"がただの"f"として振る舞っていたせいなのだ。
 結局のところ、"fp"や"sfz"をプレイバックに正しく反映させたければ、ここの「タイプ:」を「なし」にしてしまえばよい。「なし」を選択した場合、「効果:」以下の設定については無視されるので、このままの状態でも問題ない。


 なお、この設定の変更はそのファイルにしか効力がないので、新規ファイルを作成する度にこの変更作業を行いたくなければ、大本のデフォルトファイルの設定を変更しておく必要がある。デフォルトファイルの置かれている場所はOSやFinaleのバージョンによっても異なるので、「プログラム・オプション - フォルダ」の「楽譜書式設定ファイル」、「デフォルト・ファイル」に表示されているパス名で確認していただきたい。
 「デフォルトの新規ファイル」から作成する場合、「Default Files」フォルダにある「Kousaku Font Default」がデフォルトファイルとして参照される。「セットアップ・ウィザードによる新規作成...」から作成する場合、「Document Styles」フォルダにある「出版譜風」の他に、サブフォルダ中の「英語版」フォルダに入っているものとJazzフォントのもの以外は基本的に「Kousaku Font Default」をベースに作られているので、これらの楽譜書式を使う場合も同様の変更を行っておく必要がある。


SetupWizard.jpg

赤枠が「Kousaku Font Default」がベースになっている楽譜書式の一例(クリックで原寸表示)


 興味深いことに、バージョンを遡って調べてみると、これらの強弱記号にベロシティが設定されたのは2007以降のデフォルトファイルであり、それ以前のデフォルトファイルではすべて「なし」に設定されていた。相談室での質問の「最近機能しなくなっている」というのは、「以前は機能していた」ということであり、それはHuman Playbackが搭載されたバージョン2004から2006での話であろう。
 ただ、Finaleに付属しているデフォルトファイルについて、英語版のものも含め虱潰しにチェックしてみたところ、"fp"などにプレイバック効果が設定されているのは、後にも先にも2007以降の「Kousaku Font Default」しか見当たらない。2007といえばHuman Playbackの機能が大幅に強化されたバージョンではあるが、"fp"などのプレイバック解釈に変更があったわけでもないのに、なぜそのプレイバック設定を変える必要があったのか、今もって大きな謎である。

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このページは、Hossyが2013年6月25日 02:00に書いたブログ記事です。

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