前回はパーカッションの扱いとコードネーム機能に絞ったレビューを行ったので、今回はそれ以外の新機能についてレビューしてみよう。
リハーサルマークの改善
リハーサルマークの並びが自動化された。発想記号のリハーサルマークカテゴリの設定において、リハーサルマークの並び方を定義しておくと、ひとつのリハーサルマークの設定だけで曲中のすべてのリハーサルマークをコントロールできる。
たとえば、ABC順に並ぶリハーサルマークを定義する。それを楽譜中に最初に配置すると、まず[A]が置かれる。そのマークより後の小節に新たなマークを置けばそれは自動的に[B]になる。逆に前の小節に置くと、新たに置かれたマークが[A]になり、最初に置いたマークは自動的に[B]に並び替えられる。すなわち、楽譜中にリハーサルマークをランダムに配置していっても、つねに自動的に並び替えられてゆくのだ。これで、うっかり同じ番号を振っていたり、番号を飛ばしてしまったりするミスはなくなるし、何より、作編曲中にリハーサルナンバーの番号を意識しなくてもすむのは精神衛生的にもすこぶるよろしい。
また、組曲や多楽章形式の曲など、一つのファイルに複数の曲が入っている場合、新たな曲が始まるたびにリハーサルマークの属性をリセットすれば、その位置から振り直してくれる。
コンテクストメニューから"Rehearsal Mark Sequence"を選択し
開始番号をAに設定すると......
そこから振り直される
当然のことながら、古い慣習で[I]や[O]を飛ばしたり、ダッシュを含むような不規則なリハーサルマークはシーケンスとしては定義できないので、従来通り単独で置くしかない。
また、日本語版に付属するRentaroフォントを使ってリハーサルマークを定義する場合、[Z]を超えて[AA]となったときには正しく表記されなくなるので注意が必要である。
小節番号をリハーサルマークとして利用することも可能である(上記の発想記号の設計ダイアログ中のポップアップメニュー参照)。小節番号機能で振られた小節番号とダブった箇所は、小節番号の方を自動的に非表示にするオプションも用意されている。
スコア譜とパート譜で独立した設定が可能になった小節番号
2010からは、ひとつの小節番号定義に対して、スコア譜とパート譜の表示方法を独立して設定できるようになった。
吹奏楽譜などでは、パート譜では各組段の冒頭のみに、スコア譜では小節ごとに小節番号が振られることが多い。従来のFinaleでこれを実現させるには、リンクパートを設定したスコア譜から最終的にスコア譜のみを抜き出して、小節番号を新たに定義し直すしか方法がなかったが、2010からはひとつのファイルでこれが実現できる。
プレイバック音源にエフェクターが利用可能
プレイバック音源ごとに独立したVST/AU経由のプラグインエフェクターをかけることが可能になった。また、音源同士の音量バランスも調整可能になっている。
(クリックで原寸表示)
透明化されたハンドル
これまではただの四角だったハンドルが透明になり、選択状態のハンドルには色が付くようになった(色は初期設定で変更可能)。これで、楽譜を縮小表示にしているときなどに、記号類がハンドルに隠れてしまうことは防げる。
一方、上記の画面をご覧いただければお分かりのように、透明化されたことによってコントラストは落ちてしまうので、認識性という意味ではやや弱くなってしまった感もある。さらに、ハンドルがちょうど符頭などの黒い部分と重なってしまうと、全く見えなくなってしまうという欠点もある。
右の二つのスラーにもハンドルが表示されているはずだが、符頭に隠れている
やっぱり従来のハンドルの方がいいという場合は、プログラムオプションの設定で元に戻すこともできる。かくいう私も、最初は物珍しさも手伝って透明ハンドルにしていたのだが、結局、従来のハンドルに戻してしまった。このあたりは好みの問題だろう。
新しい音楽記号フォントが付属
ブロードウェイの写譜屋の筆致を再現する音楽記号フォントが新たにバンドルされた。通常の記譜用フォントとパーカッション符頭用フォント、テキストフォントの3種類のフォントで1セットになっている。Jazzフォントほど手書き風に崩れておらず、写譜ペンで丁寧に清書した楽譜というイメージである。
ハイパーリンクの埋め込み
テキストブロックにURLやメールアドレスを埋め込めるようになった。リンクが埋め込まれた部分は青字に変わり、下線が付く。
楽譜にハイパーリンク機能が必要かどうかは議論の分かれるところかも知れないが、埋め込まれたリンクはFinale Reader等で閲覧する際にも有効なので、自作曲のFinaleファイルを他人に渡したりFinale Showcaseに投稿した際に、作曲者名の部分に自分のアドレスを仕込んでおくなどという利用法も考えられる。ちなみに、PDFとして書き出した場合は、リンクは無効になってしまった(そこまで自動化してくれれば文句ないのだが......高望みか)。
ざっと、2010の新機能を紹介してきたが、気になるバグについての情報も記しておこう。
2010はまだ試運転を始めたばかりだが、それでも早速いくつかの新たなバグを見つけてしまった。「Finale 2010レビュー(1)」のコードネームの項で紹介しているバグの他にも、道具箱ツールの操作時にメッセージバーに表示されるはずの数値が表示されないバグ(マニュアルには表示される旨が書かれている)も確認されている。使い込んでいくと、さらに新たなバグが見つかる可能性もありそうだ。
既存のバグについてはどうだろうか。「コーダ切れの作成」プラグインのバグに至っては、直るどころか、後半の組段の符尾や付点が消えてしまうというオマケ付きだ。これでは使い物にならない。
ライブコピーされた小節やその直前の小節に特定の項目のみ(変形図形等)をコピーすると、その小節の内容が消えてしまうバグ(2009から発生)もそのままだ。
なお、「後打音をコピーすると前打音になる!?」で紹介したバグは、今回のバージョンで修正されていることが確認された。
人間とは現金なモノで、あるものを手に入れると、さらにもっと上を手に入れたくなるものである。Finaleの機能においてもそれは例外ではない。
たとえば、今回、小節番号でスコア譜とパート譜で別々の表示が実現できるのなら、それを発想記号でも実現してもらいたいと思うのは高望みだろうか? 1ファイル中に複数の曲を入れることを想定して練習番号を曲ごとにリセットできるなら、曲ごとに冒頭のパート名をフルネームで表示させることができてもいいはずだ。テキストブロックやコードネーム、歌詞は直接スコア上で編集できるのに、なぜ発想記号だけ未だにエディタ上でしか編集できないのか。逆に、発想記号のマクロ定義はリスト上で直接指定できるのに、他のマクロ定義はいちいち楽譜に戻らなければいけないのか......等々、現状に対する不満や要望は枚挙にいとまがない。
現在FinaleにはSibeliusという強力な競合ソフトがあり、ここ数年の両者のバージョンアップは互いを非常に意識したものになっている。たとえば、今回のリハーサルナンバーの自動化機能はSibeliusでは初期バージョンから実現していた機能である。一方、最近新バージョンをリリースしたSibeliusには、Finaleの既存機能であるマイク採譜やタップテンポ機能が盛り込まれた。こうしたことはライバルソフト同士の宿命と言えるが、もし、Finaleにライバルソフトがなく、楽譜作成ソフトのシェアを独占していたら、Finaleの開発元は現状に満足してしまい、機能向上のための開発は停滞していただろう。MakeMusic社が開設しているユーザーフォーラムには、Sibeliusを引き合いに出してスタッフに機能強化を求めるユーザーの声も少なくない。強力なライバルソフトがあるからこそ、ソフトは切磋琢磨されてより良いものへと進化して行くのである。
私の知り合いは古参のFinaleユーザーだったが、Sibeliusの魅力に取り憑かれてしまい、とうとう宗旨替えをしてしまった。私は仕事との相性もあって今後もFinaleを使い続けることになるだろうが、Finaleの向上のためにも是非ともSibelius陣営にも頑張ってもらいたい。そして、それにも増してそのSibeliusを凌駕せんと日々奮闘するFinaleの開発スタッフにエールを送り続けたいものである。