混在できない2つの連桁パターン

 次の譜例をご覧頂きたい。極めて普通に見られるリズムだが、じつは、Finaleはこの楽譜を書くことができない(正確に言えば、書けなくはないのだが、面倒な作業を必要とする。詳細は後述)。意外に思われるかもしれないが、これもFinaleの変な仕様のひとつだ。


a. beampattern1.jpg


 Finaleには、上記の譜例のような16分音符以下の連桁が休符を挟む場合の、内側の連桁をどう処理するかというオプションがある。


beamoption1.jpg

 このオプションをオンにすると、16分音符同士の内側の連桁はつながれるが、つながる相手のいない不完全連桁まで伸びてしまう。


b. beampattern2.jpg

 一方、このオプションをオフにすると......


beamoption2.jpg

 左側のパターンの不完全連桁の方は正常だが、16分音符同士の内側の連桁は分断されてしまう(そういうオプションなのであたりまえだが)。


c. beampattern3.jpg

 しかし、そもそもc.の右側のような連桁パターンはありえるのか? 少なくとも、信頼のおける老舗の出版社の楽譜ではこの形はお目にかかった記憶がない(しらみつぶしに探せばあるのかもしれないが)。普通に考えても、手書きで楽譜を書く場合、わざわざc.のような面倒な書き方をする人はいないだろう。浄書の書法もそのルーツは手書き譜にあることを考えれば、このパターンの場合も、内側の連桁がつながったa.(b.)が本来の形と考えるのが自然である。

 じつは、この内側の連桁をつなぐオプションはFinale 2000から設けられたもので、それまでのFinaleでは無条件でc.のパターンになっていた。a.のように内側の連桁をつなぎたければ、「連桁伸縮ツール」でちまちまと伸ばしていくしかなかったのだが、この作業を疎んじた人、あるいは浄書のセオリーに疎い人は、c.の状態の楽譜をそのまま世に出した。90年代からc.のパターンが巷で目に付くようになったのは、Finaleにもその一因がありそうだ。

 では、こんなオプションなどわざわざ設けずに、デフォルトで無条件でつながるようにすればいいじゃないかと思われるだろうが、そうもいかない事情がある。もしそうした場合、今度は2000以前に「連桁伸縮ツール」を使って調整した連桁が正しく表示されなくなるのだ。つまるところ、このオプションは過去のデータと互換性を取るためにだけに存在しているのである。Finaleには、このような過去の負の遺産を現在までずっと引きずっている部分があり、それがユーザーを混乱させる一因にもなっているわけだが、このあたりについては、またの機会に改めて述べることにする。

 というわけで、このオプションは本来なら常にオンにしておくべきなのだろうが、そうするとなぜか、b.の左側の連桁パターンのような楽譜としてあり得ない表記を生じさせてしまう。楽譜中に一方のパターンしか出てこないのであれば、そのパターンが正しくなる設定を選んでおけばいいが、両方のパターンが混在する場合、一方を正しい表記にしようとすれば、もう一方の表記が正しくなくなるという、「こちらを立てればあちらが立たず」状態になってしまうのだ。

 実際、この問題に遭遇した場合は、次のいずれかの方法で修正するしかない。


  • チェックをオンにした状態(b.)......「連桁分断ツール」を使って、不必要に伸びた不完全連桁を切断し、「特殊連桁ツール」を使って、残った断片を8分音符の連桁の位置に重ねて隠す。

  • チェックをオフにした状態(c.)......「連桁伸縮ツール」を使って不完全連桁を相手側の位置まで伸ばす。

 どちらの方法を使うかは、修正を要するどちらの連桁パターンが少ないかで判断するしかない。このあたりはFinale User's Bibleに詳細な手順が載っているので、興味のある方はそちらをご覧頂きたい。 

 現在もなお、正統な形であるa.の状態にするには上述のとおり面倒な作業を必要とする。しかし、浄書家ならともかく、一般的に作編曲でFinaleを使う人にまでこの作業を強いるのは酷なことだ。結局のところ多くの人は、あり得ない表記を引き起こすb.を避けて、それよりはまだましということでc.のスタイルを選択することになる。
 一定のシェアを持った特定のソフトの妙な仕様のせいで、正統的な書法が軽んじられ、妙な書法がスタンダードになってしまうことは残念なことだ。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://finale-hossy.sakura.ne.jp/cgi-bin/mt-tb.cgi/17

コメントする

このブログ記事について

このページは、Hossyが2008年7月 1日 15:00に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「休符の垂直位置」です。

次のブログ記事は「プロは使わないフレックス・スラー」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。