Finaleのここがダメ! : 2008年12月アーカイブ

 音楽初心者のブログや質問箱での質問で「ダブルフラットやダブルシャープってどうして必要あるの? ナチュラルで書けばいいのでは?」と訴えている人をしばしば見かける。中には「私はダブルシャープなんか使いません!」と宣言しきっている人もいる。音楽理論を学べばダブルフラットやダブルシャープの必要性はおのずと理解できるはずだが、初心者にとって、これらの記号は庶民が安易に使っちゃいけない高尚な記号という感覚があるようだ。しかし、Finaleの話となるとちょっと事情は異なるようである。

 高速ステップ入力での音符入力中に「9」キーをタイプすると異名同音の切り替えができることはご承知のとおりだろう。ところで、1つの音に対する異名同音は2種類とは限らない。下の譜例では、縦に並んだ音はそれぞれ異名同音の関係にある。しかし、Finaleの異名同音切り替えは黒で示された音符同士にしか切り替わらないのだ。(なお、異名同音は理論上は重々変(嬰)音、重々々変(嬰)音......と存在するが、きりがないのでここでは一般的な重変(嬰)音までとする。ちなみに、Finaleは重々変(嬰)音以上の変化記号もサポートしている。)


Enharmonic1.jpg

 C音に対してはBシャープ音、B音に対してはCフラット音にしか切り替わらず、それぞれのもうひとつの異名同音であるDダブルフラット、Aダブルシャープには切り替わらない。使用頻度の少ない重変音・重嬰音より、変音・嬰音への切り替えを優先させたというのは理解できる。しかし、異名同音が重変音と重嬰音しか存在しないD、G、A音については、使用頻度に優劣は付けられないはずなのに、Finaleではダブルフラットにしか切り替わらないのだ。

 この仕様のおかげで、シャープ系の調にて「異名同音の表記」を「シャープを優先」とし、入力時にちゃんとダブルシャープで表示された音でさえ、ひとたび異名同音の切り替えを行ってしまうと、2度とダブルシャープでは表示されなくなるのだ(「編集メニュー」の「異名同音の再表記」を行うと入力時の状態に戻るが)。


Enharmonic2.jpg

ダブルシャープの音を「9」キーで異名同音変換したところ


 以上のことから、MIDIキーボードを使って高速ステップ入力を行う際にダブルシャープを表示させたい場合、まず、五線上の実際に置かれる高さの音を入力し、その音にカーソルを合わせてダブルシャープになるまで「+」キーをタイプするしかないのである。これは、入力されたMIDI信号をどの音で表記するかという判断であるから、リアルタイム入力した場合(マイク入力も含む)や、MIDIデータをコンバートした際にも同様のことが起こりうる。

 では、どうして開発者は異名同音の切り替えを2音間のみに限定させてしまったのだろうか?
 例えばC音に対して、C→Bシャープ→Dダブルフラット→Cというように、存在する異名同音が順番に切り替わったとしよう。これが2和音になると、1つの音に対する異名同音が3種類として、3×3=9通りの異名同音の組み合わせが存在することになる。3和音では3×3×3=27通り、4和音では3×3×3×3=81通りとなってゆき、もはや切り替えで希望の表記に到達させることは非効率だ。また、この切り替え方法では、2度音程の和音では音程の逆転も生じてしまい、音楽的に意味がない変換となってしまう。


Enharmonic3.gif

2音間のみの切り替えしか行われない現行のFinaleの仕様でも、
2度音程では音程の逆転が生じうる。

 こうしたことから、Finale開発者は、すべての異名同音を切り替える煩雑さよりも、切り替えを限定することによる簡便さを優先したのではないだろうか。それでも、D、G、A音の変換がダブルフラット方向のみに限定された理由の説明は付かないが......。

 ただ、この問題は単純に考えても、「9」キーをタイプする従来の変換に加えて、Shiftキー併用で反対方向の異名同音に変換という操作で解決するのではないかと思うのだが、何かプログラム的な不都合があるだろうか? もし機会があれば開発者に投げかけてみたい。

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